
岸田政権が介護職の賃上げを約束しました。まずは来年2月から、新たな交付金などで月額3%程度(9000円)の引き上げを実施する案を固めています。【結城康博】
私はこの施策の方向性を支持し、大いに歓迎しております。そのうえで、現場の視点からいくつか主張させて頂きたい。
■ ちまちま上げても効果は薄い
まずは、当面の月額9000円という額では全く足りないということ。もちろん今後の追加策への期待を込めて言うわけですが、これでは目下の深刻な人手不足は解決しないでしょう。
今回の賃上げが人材確保を第一の目的としていないことは理解しています。ただ、必要なサービスを満足に受けられない"介護難民"をこれ以上増やしてはいけないですから、やはり人手不足の問題に言及せざるを得ません。
次の表は、政府の会議(公的価格評価検討委員会)に提示された資料を基に作りました。介護職員の給与は、夜勤があるにもかかわらず、全産業の平均より6万円弱低くなっています。

まずはこの差をゼロにすべきではないでしょうか。国が介護職員にサービスの質の向上などを求めるのは、是非それからにして頂きたい。
政府はこれまで施策を積み重ねてきており、トータルでみれば確かに、処遇改善はそれなりに進んできたと言えるでしょう。ただ、非常に小規模な賃上げを何度も繰り返すという手法をとったことにより、その効果を十分に実感している介護職員はほとんどいません。2000年代から働き続けているベテランの一部が、「昔と比べればましかな…」などと思っている程度でしょう。
長期で合算した賃上げの総額などほぼ無意味です。労働市場に大きなインパクトを与えるためにも、早急に全産業平均の水準まで思い切って引き上げるべきです。ちまちまとした施策ばかり続けていると、巨額を投じても成果が出ないという残念な結果になりかねません。
■ 積極財政はやがて緊縮財政に
今回の交付金による9000円程度の賃上げについて、政府は来秋から介護報酬に組み込む方向で検討しています。まだ確定したわけではないですが、仮にそうなれば来秋にプラス改定が実現することになるでしょう。小幅ながら保険料や利用者負担も増えますので、24年度改定をめぐる議論は一段と厳しさを増すと考えられます。
コロナ禍が収束に向かえば、今の積極財政は緊縮財政へ転換される可能性が極めて高いですよね。24年度改定の議論が佳境を迎える23年末頃に、そうした状況が生じていると予想されることも大きな懸念材料と言えるでしょう。
全体としてマイナス改定にならなかったとしても、例えば各サービスの基本報酬の引き下げ、利用者負担の2割の拡大、ケアプランの有料化、軽度者に対する訪問・通所の総合事業への移行など、給付費の抑制策が断行されることは十分にあり得ます。
介護職の賃上げは評価すべきことですが、その財源の確保策は未だ曖昧なままです。打ち出の小槌はありません。24年度改定を楽観視することは決してできない、と思っている関係者はかなり多いのではないでしょうか。
今後の賃上げについて、私は全額国庫負担による交付金で具体化し続けるべきだと考えています。保険料や自己負担に跳ね返る介護報酬、加算の仕組みではなく、財源は主に税として頂きたい。富裕層により多く負担してもらうことも含め、税制のあり方を絡めて議論していくことが適切な分配につながるのではないでしょうか。