増える介護職員の虐待、事業者の責任も大きい 人事マネジメントの再考を【結城康博】

イメージ画像

《淑徳大学総合福祉学部・結城康博教授 》

昨年、介護施設の職員が入居する高齢者を殺害したという事件が全国を駆け巡った。過去にも同様の痛ましい事件が発生している。本来、介護経営者や管理者の責任がもっと問われるべきではないだろうか。【結城康博】

もちろん、加害者である介護職員は法的に罰せられ責任を負うべきである。ただ私は、深刻な事件が生じても加害者の罪状などに注目が集まるだけで、介護経営者・管理者の責任追及が鈍いと考える。

日々、大半の介護職員は真面目に仕事に従事し、要介護者のケアに邁進している。しかし、深刻な事件が定期的に明るみに出れば介護職員への社会的イメージは悪化し、更に人気のない職種となっていく。その大きな要因が、一部の介護経営者・管理者の人事マネジメントの問題にあると言わざるを得ない。

◆ 介護職員の虐待、過去最多に

厚労省のデータによれば、プロの介護職員(養介護施設従事者等)による虐待件数は昨年度に過去最多の739件となった。調査が始まった2006年度と比べると、約13倍に増えている。表を見れば、在宅を中心とした家族介護者(養護者)による虐待件数の増加率と比べて、介護職員のそれがはるかに高いことが分かる。毎年、要介護の高齢者が増えているため虐待件数が増加することはいたしかたないとしても、これだけの伸び率は、介護人材不足の深刻さと人材マネジメントの問題を浮き彫りにしていると言えよう。

 

◆ 経営者・管理者の責任とは

一般的に介護施設では、入居している要介護者と介護職員などの比率は法令上「3:1」である。現場ではこの体制を維持するため、介護の仕事に不適切と思える人材でも採用してしまうケースが多くみられる。経営者・管理者は厳しい人材不足の中で、法令順守の観点からいたしかたないと妥協するのかもしれない。

周知のように、介護施設ではたとえ無資格であっても従事可能とされているため、応募があれば誰でも雇うことはできる。しかし、採用の段階で疑問のある人材は絶対に採用すべきではない。問題のある人材を採用すれば、既存の介護職員にも悪影響を及ぼすからだ。

また、未経験の介護職員を採用したならば、しっかりと研修プログラムを施し、「虐待とは何か?」といった養成・育成をしなければならない。しかし、実際はそうなっていないケースも珍しくない。人手が足りていないため、既存の介護職員の「見よう見まね」ですぐに業務につかせる形が多いのが実情だ。

こうした不十分な介護人事マネジメントの結果が、介護職員による虐待となって顕在化しているのである。加害者の責任を追及することも重要だが、あってはならない事態の発生を未然に防いでいく観点からは、運営の不十分さを見過ごしている介護経営者・管理者の責任も問われなければならない。

今回の介護職員による過去最多の虐待件数のデータは、介護業界に襟を正すように求めているかのようである。