現実味を帯びる介護保険制度の軽度者改革 総合事業の本来の目的に立ち返った議論を【高野龍昭】

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《東洋大学 高野龍昭准教授》

12月20日、2024年度に向けて検討を進めてきた社会保障審議会・介護保険部会から、「介護保険制度の見直しに関する意見」が正式に発表されました。【高野龍昭】

大きな注目を集めた「軽度者改革」、すなわち「要介護1と2の訪問介護・通所介護などを保険給付から介護予防・日常生活支援総合事業に移行する」ことについては、財務省の審議会から強い意見が出ていたにもかかわらず、今回は見送られることになりました。この見直しを懸念していた介護職員・経営者や利用者などは、ひとまず安堵したのではないでしょうか。

◆ 財務省に対する厚労省の“手形”

しかし、介護保険部会の意見書の記述を詳細に読むと、単に「見送った」とは記載されていません。

実際には、見送り・見直しの賛否の両論を併記したうえで、「現行の総合事業に関する評価・分析などを行いつつ、第10期計画期間の開始(2027年4月)までの間に、市町村の意向や利用者への影響なども踏まえながら、包括的に検討を行って結論を出すことが適当」という書きぶりになっています。

つまり今後について、2027年度の制度改正に向けてその是非の検討を改めて行う、と結論付けているのです。

これは極めて異例です。私は、介護保険制度の創設前から関係する審議会の意見書・報告書などをつぶさに確認してきましたが、こうした書きぶりは記憶にありません。第10期、すなわち「次の次の制度改正」に向けて検討の方向性を示すことなど、前例がないはずです。

このことが何を意味するのか、はっきりとは分かりません。

ただ私は、

○ 厚労省による財務省への一種の“手形”だと読み取れる

○ 2015年頃から継続して軽度者改革を強く迫っている財務省サイドに対し、厚労省サイドが“2027年度までにはしっかりと議論する”というメッセージを送っている

と推察しています。このことは前回も書きました。

私はこの“手形”によって、2027年度改正での軽度者改革の断行が、むしろ現実味を帯びたと受けとめています。

実際、今回の意見書の中には「総合事業を適切に推進し、充実化していくための検討を、2026年度までに集中的に取り組むことが適当」という記載もあります。軽度者改革のための準備をしよう、と呼びかけているとさえ思える書きぶりです。

◆ 改革を迫り続けてきた財務省

この総合事業の“歴史年表”を図に示してみました。

表:介護予防、日常生活支援総合事業の歴史

創設は2012年度。当初は市町村の任意事業として位置付けられていました。その後、2015年度から全ての市町村に実施が義務化され(段階適用)、今日に至っています。

2015年度以降の見直しは限定的なものに留められ、今回も軽度者改革の実施が見送られることになりました。結果として、10年以上にわたって大きな改革が行われないことになります。

一方の財務省サイドは、2016年末のいわゆる「改革工程表」以降、粘り強く軽度者改革の実施を迫り続けてきました。

こうした歴史をみると、「厚労省はいつまで財務省に抗い続けることができるのか」といった点も、私の問題意識として浮かんでいます。

◆ 目的は給付費抑制ではなかった

実は私は、総合事業の創成期(2012年度)に、その推進策を検討する国の研究事業に参画していました。この意味で、総合事業には私個人としても様々な思い入れがあります。

その頃、すなわち創成期の総合事業は、財源の膨張の抑制や給付の効率化という目的を有していなかったと記憶しています。本来の目的は、要支援者とその前段階の高齢者に対する介護予防の取り組みの推進でした。

つまり、介護予防の効果を高めるためには、保険給付だけでも当時の介護予防事業だけでも不十分であり、そこに住民主体の活動や一般事業者も含めたサービス提供を総合的に組み合わせて展開し、今日で言うところのソーシャル・キャピタルを厚くすることが必要だ、という議論から生まれた仕組みだったのです。

ところが、近年の総合事業をめぐる議論は、財政面からの見直しの推進という色合いが強くなっています。本末転倒と言ってもよいでしょう。

私は、今こそ総合事業の本来の目的に立ち返って、この事業の将来のあり方を検討することこそ必要なのではないか、と考えています。