これからのケアマネ処遇のあり方

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2021年度の介護支援専門員実務研修受講試験の受験者数が公表されました。前年度比で7900人以上の伸びとなり、受験資格の変更によって急減した2018年度以降では、初の5万人台に回復しています。とはいえ、急減前と比較してまだ半分以下という数字です。

2021年度報酬改定が受験者数に影響した?

ご存じのとおり、2019年度に1事業所あたりのケアマネ数(常勤換算)の平均は2.7人で「3人」を下回りました。居宅介護支援の請求事業所数も、2018年度から頭打ちとなっています。いずれも、受験者数の急減が要因の一つと考えていいでしょう。

そうした中での2021年度の報酬改定では、逓減制の緩和や特定事業所加算のすそ野の拡大などのテコ入れが図られました。基本報酬も1.8%ほど引き上げられています。今回の受験者数の増加は、こうした介護報酬の見直しが影響しているという見方もあるでしょう。

一方で、全サービス共通の基準強化が図られるなど、現場での実務量も増えています。事業所単位での業務負担と賃金増のバランスが十分に取れなかったり、カスタマーハラスメント等への対応が不十分であれば、今後は離職者が増えるといった懸念材料もあります。

問題は2025年度に向けた業務負担のあり方

いずれにしても、団塊世代が全員75歳以上となる2025年に向けて、さらなるケアマネ参入および離職防止に向けた後押しが欠かせません。特に、実務負担の増加という観点からの対応が求められます。

たとえば、2024年度の改定に向けては、「ケアマネジメントへの利用者の導入」が再び論点となるのは間違いないでしょう。仮に導入された場合、ケアマネと利用者の間の関係性が変わってくること(ケアマネへの法定外の要望が増えるなど)も考えられます。

また、2024年度は診療報酬とのダブル改定となります。2022年度の診療報酬改定も一つの指標となりますが、病床再編などがさらに進んで「在宅での重度療養対応」の範囲が今まで以上に広がれば、対医療連携におけるケアマネの役割も大きく変わってくるでしょう。

こうした状況を踏まえたうえで、「ケアマネ処遇」の議論がなされることが重要です。

介護福祉士以外でケアマネを目指すケース

実は、もう1つ気になる点があります。今回のデータはあくまで受験者数ですが、直近の合格者数の推移を見ると、職種別の数字から見えてくる兆候があることです。

もちろん、合格者の職種別割合では、一貫して介護福祉士が圧倒的です。受験者数が急減する直前の2017年度のデータでは、介護福祉士による合格者数は19,838人で、合格者全体の割合も7割にのぼっていました。

これが2018年度には8分の1に減少し、職種別の割合でも5割にまで落ち込みました。その後は4000人台まで回復しましたが、2017年度(急減前)と2020年度の合格者数を比較すれば、約4分の1という状況です。職種別割合でも5割台にとどまっています。

この推移からもう一つ見えてくるのは、介護福祉士からの合格者数が大きく変動する中、(2018年度を境に一定の増減はあるものの)比較的堅調に推移している職種があることです。例えば、社会福祉士、精神保健福祉士、保健師、相談援助業務等従事者などです。

障害福祉等でも一定程度のケアマネが活躍

上記の職種の割合を合計すると、2020年度では16.5%に達しています。これは、看護師・准看護師の割合とほぼ同じです。つまり、主にソーシャルワーク業務のフィールドからケアマネを目指す人の割合が、常に一定程度を占めつつある状況が見受けられるわけです。

こうした人々の就業状況として、高齢者分野でいえば施設等の生活相談員ということになるでしょう。しかしそれだけでなく、例えば障害福祉や生活困窮者支援等のフィールドで活躍するというケースも、一つのキャリア像として固定化されてきたと想定されます。

実際、10月1日の社会保障審議会・障害者部会で示されたデータでは、障害福祉分野等の相談支援事業所に配置された専門職のうち、約14%はケアマネ資格の保有者となっています。高齢者介護にとどまらない分野でも、一定程度ケアマネが活躍しているわけです。

介護保険だけではない処遇と負担にも着目を

このように、ケアマネ保有者が高齢者介護分野以外で活躍する、あるいはもともと他フィールドの専門職がケアマネを取得する──こうした動きが強まる背景には、やはり2018年度からの共生社会の推進にともなう包括的な支援体制の強化があげられるでしょう。2020年の法改正では、重層的支援体制整備事業という新たな枠組みも設けられています。

普段は介護保険の居宅介護支援を手がけるケアマネでも、これからは、市町村からの委託事業等で「世帯内の多様なニーズへの対応」が業務として位置づけられる可能性もあります。こうした業務拡大を想定したうで、人員基準なども緩和が図られるかもしれません。

こうした状況を見すえれば、ケアマネの処遇について、介護保険以外の公費のあり方も考慮する必要があります。これらがバラバラに議論されると、ケアマネの業務負担と処遇のバランスが見えにくくなり、なし崩し的に就業状況が悪化しかねません。目指される共生社会のもとでは、ケアマネ処遇の議論のあり方も根本から見直す必要がありそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。