診療報酬特例さらに拡大。介護は?

f:id:testcaremane:20210830101313j:plain

新型コロナウイルス変異株の感染拡大により、全国規模での病床ひっ迫が深刻化しています。そうした中、8月26日の中央社会保険医療協議会(中医協)で入院診療にかかるさらなる報酬上の特例案が示され、了承されました。在宅診療・看護、および介護側の評価のあり方とも照らしながら、今後の展開を考えます。

救急医療管理加算、最大で6倍に引き上げ!

今回、中医協で了承された診療報酬上の特例は、「新型コロナウイルス感染症にかかる診療報酬上の臨時的な取り扱いについて(その56)」(8月27日事務連絡)で発出されています。その内容をチェックします。

(1)新型コロナウイルス感染症により、酸素療法が必要な患者のほか、急変時のリスクを想定して入院を要する患者に対する加療

→救急医療管理加算を旧・特例3倍(2,850点)から4倍(3,800点)に引き上げ

(2)中等症Ⅱ(呼吸不全管理を要する患者)以上の診療にかかる評価

→救急医療管理加算の旧・特例5倍(4,750点)から6倍(5,700点)に引き上げ

(1)については昨年5月26日付で示されたもの、(2)には昨年9月15日付で示されたものを、それぞれさらに引き上げたことになります。特に(2)の「6倍」という大幅な引き上げは、それだけ重症患者への対応が困難になっている状況を現わしているといえます。

報酬インセンティブに、中医協から限界説も

今回の診療報酬上のさらなる特例をめぐっては、(一応了承はされましたが)中医協での採決時にさまざまな意見が出されました。

たとえば、「現在の喫緊の課題である病床確保という点では、診療報酬引き上げの効果は限定的であり、(中略)課題は到底解決されるものではない」というもの。また、診療報酬の引き下げそのものは歓迎しつつも、「実際にコロナ病床や病院の医療従事者の増加につながったかどうか」について、調査・検証を求める声も多数上がっています。

確かに、医療従事者の育成数などが限定される中では、一時的に診療報酬だけを引き上げても「効果は限定される」のが現実でしょう。実際、中医協の委員からは、「金銭的な誘導」だけでなく、「病床不足の解消を後押しする積極策が、政府全体としてとられることを期待する」という意見も出ています。

この「積極策」が具体的に何を指すのかというのは不明ですが、たとえば治療薬の開発等を国レベルでいかに促進させるかなどが考えられます。一方で、従事者不足の問題は、一朝一夕で解決できるものではありません。

育成までの一定のタイムラグを想定しつつも、「今からできること(従事者養成の根本的な見直しなど)」に早急に着手することが不可欠でしょう。当然、法改正なども必要になるケースもあることを考えれば、ただちに国会を開催することも必要になってきます。

他診療ひいては介護サービスへの影響は?

懸念されるのは、限られた医療資源の中で、新型コロナの入院患者対応に過度のインセンティブ集中が図られた場合、通常の医療への影響がさらに拡大しないかという点です。

民間病院では病床にまだ余裕があるとは言われますが、それを支えるマンパワーとのバランスは決して盤石とは言えません。たとえば、介護事業の側から見た場合、利用者の日常診療や介護と医療の連携などにじわじわと支障がおよぶことも想定されます。

そうなった時、利用者の日常生活に寄り添う介護現場としては、さまざまなしわ寄せを受ける可能性が高まります。医療機関との十分な情報共有ができなければ、重度化防止に向けたチーム対応も困難になるでしょう。看取り期に際して、緊急時の対医療連携に支障が生じることも懸念されます。

いずれにしても、これから先は介護現場への負担はさらに高まることは間違いありません。利用者が感染し、「自宅療養せざるを得ない」となれば、医療との協力体制の必要性はさらに高まります。その在宅医療等が機能しなくなれば、介護サービスの提供そのものもストップせざるを得ません。

9月までの報酬特例は果たして延長される?

こうした来るべき危機を考えた場合、少なくとも診療報酬側のインセンティブと並行して、介護報酬上の取扱いも早急に論点とする必要があります。医療側が「当面、診療報酬上のインセンティブしか取りようがない」というのなら、介護報酬側とのバランスを取っていくことも不可欠となるからです。

中医協では、「9月にさまざまな経過措置や診療報酬上の特例が切れる」ことへの対処を求めていますが、介護報酬でも同様です。具体的には、今年9月末までとなる介護報酬上の新型コロナ特例分の上乗せ(+0.1%)について、期限延長を求める声も高まるでしょう。

現在、厚労省は事業所の支出への影響調査を行なっていますが、やはり現場実務などの増加にかかる多角的な実態調査なども行なう必要があります。そのうえで、先の新型コロナの特例延長はもとより、さらなる報酬上の上乗せなども図ることも求められます。

国は医療と介護の強固な連携をかかげているわけですから、「これから先、介護にどのような影響が及ぶか」は明らかなはず。そこで「先手」を打つことが、その後の被害を最小限に抑えることにつながります。後手に回って、現場の混乱を拡大させるという同じことの繰り返しは避けなければなりません。

・参考:新型コロナウイルス感染症への対応とその影響等を踏まえた診療報酬上の取扱いについて

・参考:第487回 意見とりまとめについて

・参考:【事務連絡】新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その56)

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。