概算要求、問われているのは?

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2022(令和4)年度・厚労省予算の概算要求が出されました。新型コロナ禍で医療・介護ともに設備や人員のひっ迫度が高まる中、思い切った施策も求められる点で注目が集まっています。特に中長期的にも深刻度を増している介護人材の確保についてチェックします。

新型コロナ対策関連の多くの編成は「先送り」

まず気になるのは、新型コロナ禍での「医療機関における病床確保等の支援」や「介護サービス提供体制の支援」についてでしょう。

冒頭から拍子抜けになるかもしれませんが、これらについては、新たな項目や要求額は示されていません。たとえば、介護サービスにおける「職員の応援体制の確保」などについては、2021年度予算の内数等として同じ金額が示されているだけです。

これは、新型コロナ対策関連の多くが、「今後の感染状況を踏まえ、予算編成過程で検討する」としたことによるものです。通常、本予算については年末までに編成作業が行われ、年明けの通常国会に予算案として提出されます。その間の感染状況がどうなっているかを見すえながら、臨機応変に対応していくことが目指されたと言えるでしょう。

たとえば、感染状況が大きく変化し、緊急的な対応が必要となれば、そのつど本予算の前に補正予算が編成されることがあります。昨年の感染拡大期では、2021年度予算の前に2020年度枠として3回の補正予算が組まれました。今年もこうした流れを踏みつつ、補正予算で組まれた(新型コロナ対策関連の)項目の拡充などを見込みつつ、2022年度の本予算が組まれる流れとなる可能性もあります。

明確な新規分は、地域支援事業等が目立つ

では、新型コロナ禍での支援体制以外の項目はどうなっているのでしょうか。まずは、新規の要求分から主なものをあげてみます。

(1)地域支援事業において、「認知症の人と家族を一体的に支援するためのプログラム」について、新たに補助を実施

(2)地域医療介護総合確保基金(介護分)において、新規メニューを追加(これも予算編成過程において検討するとしている)

(3)市町村の地域づくり促進のための支援パッケージを作成し、市町村向けの研修を実施

(4)地域における(認知症の人などを対象とした)権利擁護支援体制の強化を図るため、民間団体等も含めた多様な主体が参画する連携体制などのモデル的な取組みを実施

なお、要求額の大幅な上乗せが見られるものとしては、たとえばすでに本格稼働している科学的介護にかかるDB関連があります。今年6月からLIFEのフィードバックが始まっていますが、そのLIFEの機能改修などの要求額が3倍近くまで引き上げられました。

人材確保策の新規分は「介護助手等の普及」

現場として気になる人材確保にかかる予算ですが、多くは上記(2)で手当てされます(2021年度から実施されている介護分野就職支援金貸付事業についても、(2)の地域医療介護総合確保基金の新規メニューとして位置づけられています)。もともと行政のフリーハンド色が強い基金ですが、加えて今後の状況を見ながら、予算編成の過程でさまざまな新規メニューが出てくることになりそうです。

一方で、要求段階から新規枠で具体的に示されているのが、本ニュースでも上がっている「都道府県福祉人材センターに『介護助手等普及推進員(仮称)』を配置するというものです。また、介護事業者に対しては、介護助手導入のための業務改善にかかる助言や求人開拓への支援も想定されています。

問題は、病床ひっ迫で施設等での療養者待機なども行われている中、感染リスクへの恐れが「介護助手」参入の壁となりやすい状況です。また、コア業務を手がける職員不足が解消されなければ、介護助手の手がける業務範囲がなし崩し的に拡大する懸念もあります。

やはり、コア業務を担う人材確保のビジョンが明確に示されることが大前提であり、それがないと、介助助手普及にかかる費用対効果も上がっていかないのではないでしょうか。

求められるのは現場への強いメッセージ性

こうして見ると、今回の概算要求だけでは、厳しい現場の人員不足を解消する道筋はなかなか見えてきません。「状況を見ながら、そのつど(補正予算も含めて)適切に対処する」というのも一つの正論ではありますが、現場にとって明かりの見えにくい時代だからこそ、「予算」関連には、政府としてのもっと主体的なメッセージも求められます。

たとえば、昨年度の第2次補正予算で設けられた「慰労金」は、それなりにインパクトのある施策でした。「かかり増し経費」等の助成と比べて、現場で働く人にとっては「自分たちの職務にかかる手当」という印象がストレートに伝わったのではないでしょうか。

この点を考えると、第2次、第3次の「慰労金」を打ち出したり、地域の感染状況に応じた「その他の新たな給付金」を設けることを示す時期かと思われます。「国は介護現場のことをしっかり見ている」というメッセージを「形」で示すことは、それ自体が燃え尽きや離職を防ぐ大きな力となるでしょう。

医療・介護をめぐる予算は、内閣府や財務省の方を向きながら作成するものではありません。国民、そして現場のぎりぎりの状況下で汗を流す人々の方を向いて作るべきもののはず。新型コロナ禍という未曽有の事態下では、特にその点が問われています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。