コロナ後の給付費増より深刻なこと

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介護保険事業状況報告の最新の年報が公表されました。「最新」ではありますが、実際は2019年度(要介護・要支援認定者数などは2020年3月末)の数字となっています。つまり、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前の状況ということになります。

今回示された「年報」が示すタイミング

この2019年度というタイミングについて、いくつか確認しておきましょう。

まず、高齢者の状況ですが、2018年10月1日時点で、初めて65~74歳の人口を75歳以上の人口が上回りました。その時点の両者の差は約30万人でしたが、2019年10月1日に約100万人に広がります。2019年度から、75歳以上が高齢者の注視を占める時代が本格的にスタートしたといえます。

次に、制度改正の状況です。ご存じのとおり、2018年8月から、1号被保険者のうち年金収入等が約340万円以上となる人に「3割負担」が導入されました。その1年前となる2017年8月には、一般区分の所得者の月あたり自己負担限度額も引き上げとなっています。

こうした自己負担増が1年を通じてダブルで施行されたのが、2019年度ということになります。このあたりの影響がどうなったかについても、注意が必要でしょう。

新型コロナ禍の影響を見るなら「月報」比較

気になるのは、新型コロナウイルス感染状況との兼ね合いです。感染が徐々に拡大する中、7都府県に第1回の緊急事態宣言が発せられたのが、2020年4月7日(同16日に全国に拡大)。冒頭で述べた通り、今回のデータは感染拡大が本格化する前のものとなります。

もちろん、2020年3月時点で、通所系や短期入所系の利用者数は対前年比で若干のマイナスに転じましたが、全体としてはプラスを維持していました。利用者減や給付減が際立ち始めたのは、やはり4月以降です。

言うまでもなく、サービスの利用や提供が控えられたことによる影響(重度化が進むなど)、あるいは高齢者の活動量の減少からくる介護の必要度の増加が現れるのは、2020年の半ば以降となります。そのあたりを見込めるデータとなると、「年報」だけでは足りません。

そこで注目したいのが、公表が先行している介護保険事業状況報告の「月報」です。最新のデータが2021年5月分なので、その1年前、2年前の同月と比較してみましょう。

介護ニーズ増大にサービスが追いつかない⁉

それによれば、(1)2019年5月→(2)2020年5月→(3)2021年5月における要介護(要支援)認定者数を見ると、(1)→(2)で8.8万人増なのに対し(2)→(3)では16.3万人増と増加数が倍になっています。1号被保険者全体の割合も、(1)→(2)が0.1%増なのに対し、(2)→(3)は0.4%増と4倍となっています。「利用者の高齢化」という要因はあるものの、それを超えた介護ニーズの高まりが示唆されています。

一方、居宅(予防含む)サービスの受給者数は、(1)→(2)で9.5万人増に対し、(2)→(3)で13.4万人増とやはり増加傾向にあります。とはいえ、要介護(要支援)認定者数の増加に比べるとやや緩やかです。ちなみに、給付費全体では、(1)→(2)で319億円増に対し、(2)→(3)は317億円と逆に伸びは鈍化しています。

上記の給付者数や給付額については、計上時期が少しずれる(3月。償還給付については4月)ので一概には言えませんが、認定を受けても(新型コロナ禍によって)必要なサービスが使えていない様子も浮かびます。

「意外に給付が伸びない」可能性の落とし穴

上記の新型コロナ禍をはさんだ「月報」に、先の2019年度の「年報」を組み合わせると、改めて厳しい状況が浮かんできます。

2019年度の時点から75歳以上の利用者が中心となり(在宅をはじめとする介護現場での看取りニーズも増加する)、ここに利用者負担増が加わることで、家計における介護費用が膨らんでいます。そのうえで、新型コロナ禍の影響による「要介護者の急増」と「(人材不足も含めた)サービス提供量の制限」がプラスされるとなれば、「サービスが足らない状況」が一気に広がることが予想されます。

厚労省は2022年度の介護給付費が約12兆円に達すると想定し、それを見込んだ上乗せ額を概算要求に組み込んでいます。確かに、これまでの推移延長を想定すれば、要介護認定者数は今年から来年にかけて急上昇することは間違いないでしょう。しかし、サービス不足が同時に進行すれば、給付費はそれに追いつかない可能性もあります。つまり、厚労省が想定するほど伸びないというわけです。

むしろ深刻なのは、この「ニーズの伸び」に「サービスが追いつかない」という状況です。さらに懸念されるのは、「サービスが追いつかないゆえに給付費がかからない」ことが、(財務省などの主導によって)その後の予算編成の基準にされかねないことです。

介護報酬の改定は行われたばかりですが、業界・職能団体としては「ニーズにサービスが追いつかない状況」を今から精査し、国に対して積極的に訴えることが欠かせません。次の2024年度改定をにらんだとき、今から力を注ぐべきことは何かを考えたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。