訪問介護の危機は社会保障の危機⁉

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介護労働安定センターが、2020年10月に実施した「令和2(2020)年度介護労働実態調査」の結果概要を公表しました。注目されるのが、訪問介護員のうち「65歳以上」が25%以上を占めるというデータです。訪問介護員の不足状況が8割を超えている状況も含め、訪問介護のあり方について考察します。

訪問介護員の年齢層・不足感、10年の変化

訪問介護員の年齢層がどれだけ高くなっているかという推移を、10年前(2010年度)、5年前(2015年度)と比較してみましょう。当時は年齢階級の最高が「60歳以上」でくくられていたので、2020年度も「60歳以上」の年齢階級で比較してみます。

それによれば、2010年度→2015年度→2020年度の推移は、25.2%→33.6%→37.0%となっています。この10年で、11ポイント以上伸びたことになります。今後、若年の労働人口が減少していく中で、このペースがさらに加速するは間違いないでしょう。

ちなみに、訪問介護員の「不足感」について上記の年度推移で見ると、65.9%→77.7%→80.1%。こちらは、過去10年で14ポイント以上の伸びとなります。直近では2017年度の82.4%をピークに「不足感」が緩和されてはいますが、中長期的に見た場合の「不足感」の急上昇は見逃せません。

訪問介護員の離職率は、2020年に急上昇

「不足感が高まる」ということは、それだけ「現場の負担」も高まっていることなります。ここに、利用者の高齢化にともなう「重度化」や新型コロナ禍での「感染対策への配慮」などの直近の環境要件もプラスされていきます。

そうなると、「実働時間」など可視化しやすい要因以上に、「1回の訪問にかかる精神的負担」など表に出にくい要因が労働環境を大きく左右します。仮に利用者数や訪問時間は増えていなくても、訪問介護員の潜在的な業務負担は急速に増していると考えるべきです。

そうした現場を支える訪問介護員の多くが「高齢期」を迎えるとなれば、心身の不調によって「勤務継続が困難」となるケースも増えかねません。ちなみに、介護人材の離職率は過去最低(全体で14.9%)となりましたが、訪問介護員については施設等の介護職員よりも1ポイントほど高くなっています(15.6%)。

実は、過去2年のデータを見ると、訪問介護員の離職率は13.3%(2018年度)、13.6%(2019年度)と13%台にとどまっていました。施設等の介護職員の離職率よりも2~3ポイントほど低い数字です。これが2020年度に逆転し、一気に高まったことになります。

この点については、新型コロナ禍での業務負担などが重責となる中で、先に述べた「勤務継続が困難」な状況がいよいよ表に出てきたと考えていいのではないでしょうか。

すでに訪問介護事業所数は減少トレンドに

この状況を放置すれば、訪問介護は早晩存続の危機を迎えることになります。すでに請求事業所数は2017年度をピークに減少傾向に入っていて、2020年度には5年ぶりに3万3000件を割る可能性もあります。

一方で、利用者数は2017年度以降も伸び続けています。2018年度に実受給者数がマイナスに転じる場面も見られましたが、翌年度には再びプラスとなりました。資源はひっ迫しつつある中でも、それだけニーズの拡大はとどまっていないことになります。

さまざまな理由はありますが、その1つとして以下のような状況が考えられます。それは、一人暮らしや高齢者夫婦世帯の「増加」と「本人(および同居配偶者等)の高齢化」にともない、地域支援事業の見守り・生活支援等ではカバーできない「プロの状態観察」が必要なケースが増えてきたということです。

これに対し、国は定期巡回・随時対応型の整備に力を入れようとしています。しかし、全域で10か所に満たない県が、2019年4月時点で20以上。そうした中では、訪問介護が大きな支えであることに変わりはありません。

そして、訪問介護による居宅内での生活の支えが整わなければ、通所系・短期入所系サービスへと円滑につなげることも難しくなります。その点では、訪問介護の危機は、介護保険の存続そのものも危うくするわけです。

訪問介護が崩壊すれば、在宅医療も危うい

訪問介護の崩壊によって危うくなるのは、介護保険だけではありません。医療保険による在宅医療も厳しいしわ寄せを受けます。

現在、厚労省内で2022年度の診療報酬改定の議論が続いています。そこで示されるデータ等を見ると、在宅医療を支える訪問診療(在宅療養支援診療所など)や訪問看護の資源増がニーズの拡大に追いついていない状況が見て取れます。また、新型コロナ禍による病床ひっ迫で、ここ1カ月ほどで自宅療養者数が10倍近く(約10万人)におよぶ中、訪問診療・往診・訪問看護にかかるマンパワーも厳しい状況に追い込まれつつあります。

こうした状況が続くとして、訪問診療・看護による在宅の要介護者への診療・療養体制も効率化せざるを得ないでしょう。となれば、要介護者の生活環境を日常的に整えつつ、状態変化などに早期に気づける立場として訪問介護の存在意義はますます大きくなります。

これからの社会保障を維持するうえで、訪問介護をどのように位置づけ評価していくべきか。介護保険の1サービスと見るのではなく、国民の健康を支える「柱」という視点での大胆な方針転換が迫られています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。