受験料値上げで拡大する地域格差

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来年初頭に実施される三福祉士(介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士)の国家試験の受験料が、引き上げられました。引き上げ額の大きさから受験者数への影響が懸念されています。そうした中、兵庫県明石市が値上げ分の支給を行なうとしました。

介護福祉士会が提言する修学資金貸付の活用

今回の受験料の引き上げに対して、日本介護福祉士会は、受検者数の減少だけでなく、養成施設で学ぶ学生の学習意欲の低下を懸念しています(今年7月8日の意見より)。そのうえで、「たとえば」として以下の提案をしています。それは「国の修学資金等貸付事業の国家試験受験対策費用の運用により、受験料負担の軽減を図る」といった具合です。

上記の修学資金貸付事業は、都道府県社協等を通じて行われているもので、養成施設に在学している人で一定の要件を満たした場合に貸付が受けられます。基本は学費分(月額5万円以内)ですが、入学準備金(入学初年度20万円以内)、就職準備金(最終回時20万円以内)、国家試験受験対策費用(年額4万円以内)なども加算を受けることも可能です。

ご存じの通り、上記の貸付については、卒業後に介護福祉士試験に合格・登録し、5年間介護・福祉の仕事に継続して従事すれば返済は全額免除となります(過疎地域での従事等の場合は3年)。同様の貸付事業は社会福祉士試験でも実施されています。

また、実務者コースで介護福祉士を取得する場合、実務者研修の費用の貸付も行われています。こちらは、受講費用として上限20万円で、介護福祉士取得後に2年間継続して従事すれば、やはり返済は全額免除となります。

今回の事情を考えれば明石市の手法に筋あり

このようにさまざまな貸付事業がある中で、今回の受験料の値上げ分について、たとえば「受検対策費用」の特例として貸付額を上乗せするといった方法は考えられるでしょう。

ただし、これはあくまで貸付事業であり、一定の継続従事が求められます。疾病、負傷等のやむを得ない場合は、途中で「従事できない期間」があっても、その後は引き続き継続勤務の期間としてカウントされるなどの特例はあります。とはいえ、試験実施機関の事情(赤字であることなど)で試験機会が狭められるとなれば、貸付ではなく助成という形をとることが筋とも言えるでしょう。

その点で、今回の明石市の「受験料値上げ分の差額」を助成するという形は分かりやすく、受験生の安心感を高めるうえで効果的な施策といえます。今回の値上げが新型コロナ禍による経費増が主な要因となっている点を考えれば、国としても、新型コロナ対策にかかる緊急包括支援金の一環として助成金スタイルを取ることが望ましいかもしれません。

近隣自治体で追随する動きも見られるか?

ちなみに、日本医師会の地域医療情報システムによれば、先の明石市の介護需要予測指数は、2015年を100とした場合に133となっています。全国平均が128なので、5ポイントほど高い(それだけ需要が高まっている)わけです。近畿圏の多くが同じような数値なので、圏域を超えての介護従事者の確保競争がこれから激しくなる可能性があります。

こうした中で、明石市は先の受験料値上げ分の助成だけでなく、実務者研修費用の(貸付ではなく)助成や65歳以上を対象とした介護資格取得時等の給付金などを実施しています。圏域での従事者確保に向けて積極的な独自施策を次々と打ち出しているわけですが、上記で述べたような隣接地域との確保競争が激しくなれば、近隣の自治体で追随する動きも出てくることが考えられます。

介護従事者、特に介護福祉士の確保については、2021年度改定の影響もあって、すでに事業所・施設間での獲得競争が激しくなっています。今改定の何が影響しているかといえば、大きなものの一つがサービス提供体制強化加算に上乗せ区分等が設けられたことです。

今回の値上げがおよぼしかねないドミノ倒し

ご存じのとおり、新設された最上位区分では、介護福祉士の配置割合が引き上げられたり(例.介護保険施設で6割→8割)、介護福祉士の勤続年数が要件に定められました。

また、感染対策の強化や科学的介護の推進などを通じて、求められる介護知識のレベルが上がる中、経験のある介護福祉士にかかるニーズは間接的に高まっています。2024年度改定では、介護福祉士の配置要件を強化した加算などがさらに増えることも想定されます。

こうした状況を見すえた場合、介護福祉士について、事業所・施設間だけでなく地域間の確保競争がますます大きな課題となってくるでしょう。そこで問題となるのは、保険者の施策立案力や財政状況により、介護福祉士の確保にかかる格差が大きくなることです。

地域の介護福祉士人数に格差が生じれば、その先のキャリアをにらんだ場合にケアマネ格差も視野に入ってきます。ケアマネ格差はサービスへのアクセスや調整にかかる弊害のみならず、病院から在宅への円滑な移行にも影響するという点で、ドミノ倒し的に地域医療のあり方にも影響を及ぼしかねません。

これらを考えた場合、当面自治体間の施策競争が続くとしても、それが保険者格差につながらないような下支えを、国として打ち出していくことが必要でしょう。今回の受験料値上げへの対応は、国の先々を見すえたビジョンが問われているともいえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。