2040年につなげる「今の一手」

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今回は、少し未来の話を取り上げます。ターゲットとなるのは2040年。この前後に、いわゆる団塊ジュニアが65歳以上に到達します。その時に、高齢者介護はどうなっていくのでしょうか。「実感がわかない」という人も多いでしょうが、実は今の介護現場をめぐる課題とつながっていく部分もあります。

20年後15~64歳と65歳以上の比は1.5:1

2021年度の高齢社会白書で示されたわが国の人口の将来推計によれば、2040年には15~64歳の世代人口が初めて6000万人を下回ります。一方で、65歳以上の人口はほぼ4000万人。両者の比率は1.5対1となります。また、高齢者のうち75歳以上の割合も、57%に達します(ちなみに、現在はほぼ5割です)。

当然ながら、高齢者をめぐる社会保障を、現役世代が支えられるのかが課題となります。それゆえに介護保険では、各種利用者負担の増加とともに、「介護を要さない」状態の維持に向けたフレイル予防の強化などが、さまざまな場で議論されているわけです。

厚労省も2018年から「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」をスタートさせ、2019年5月に取りまとめを行なっています。そこでは、健康寿命の延伸として、「2040年までに健康寿命を3年以上延ばして75歳以上とする」という目標も掲げられました。

フレイル予防と同時に軽度者の重度化防止を

一方で、この取りまとめのほぼ1年後に新型コロナウイルス感染症が拡大し、高齢者の外出自粛や「通いの場」等の停止など、健康寿命の延伸に向けた活動が大きく停滞しました。国は「オンライン通いの場」アプリを配信するなどの方策を打ち出しましたが、活動量増加の決め手までには至っていません。

ここへきて、ようやく感染状況は落ち着いていますが、高齢者にとって1年以上にわたるブランクを取り戻すのは簡単ではありません。今後も、こうした感染症や自然環境の変化(夏場の熱中症の増大など)が「起こりうる」ことを想定すれば、介護ニーズを劇的に減らすことは困難を伴いがちです。

となれば、軽度の時点でしっかりと自立支援に資する介護資源を投入し、重度化を防ぐことにも力を入れる必要があります。そのうえで、目先の給付カットの前に、「軽度者への介護資源にどの程度財政を投入すれば、どれだけ重度化を防いで財政の安定化が図れるか」といった分析を優先させなければなりません。

つまり、「軽度」→「重度」に向けた、費用対効果の視点が問われるわけです。やみくもに「軽度者は給付から外す」という議論だけでは逆効果となり、2040年を乗り切るうえでかえってハードルを上げかねません。

高齢期の従事者増える中でのサポートとは?

さて、資源拡充に向けて大きな壁となってくるのは、財政だけではありません。現場を支える若年世代の減少にどう対応するか──これも重要な課題となります。

先の2040年の人口構成の推計を見れば、そのタイミングにおいて介護現場を支えるのは、高齢世代が中心とならざるをえません。2020年度の介護労働実態調査で、「ホームヘルパーの4人に1人が65歳以上」というデータが話題となりました。これは、介護現場全体の未来像を映したものともいえます。

そこで何が大切になるかといえば、年齢相応の身体能力や判断能力、持久的体力との兼ね合いを総合的にサポートしていくしくみです。こうした状況を見すえ、国も介護ロボット導入や腰痛予防対策などに力を入れています。ただし、こうした「手段」メニューを揃えるだけでは、多くの現場で組織的に機能させることには限界もあるでしょう。

一人ひとりの実情に合った就業プランを

たとえば、一部の介護現場では、従事者の就業継続の支援を目的に、一人ひとりのキャリアプランを作成する動きが見られます。中には、ケアプランと同じように、意向の確認→課題の分析→目標の設定等を通じて、組織としてどのような支援が可能であるかをプランニングするというスタイルもあります。

高齢の従事者が増えてくれば、上記のような就業継続プランには、本人の健康状態や心身面でのリスク分析という要素が上乗せされます。こうしたマネジメントを通じて、たとえば腰痛防止であれば、「就業前に〇分間、(同じ課題のあるグループで)腰痛予防体操の実施」、「パワーアシストロボットの優先使用」ことを位置づけるといった具合です。

ポイントは、一律の就業ルールとして位置づけるのではなく、一人ひとりに合ったプランニングを行なうことです。これにより、体調管理や啓発機会の拡大、負担に応じた業務範囲の見直しなどについて、個人に対する組織としての支援を明確にすることができます。

一律の生産性向上よりも個別性重視の対応を

こうしたプランニングを報酬上でも評価するしくみ(処遇改善加算の職場環境等の必須要件とするなど)ができれば、「年齢を重ねても安心して働けるよう、従事者意向を尊重する」というメッセージにもなるでしょう。

今でも介護現場では、利用者の事故・容体急変などに直面する可能性、利用者からのクレームや認知症の人のBPSDなどの対応への不安感が常に付きまとっています。

2040年には、ここに自身の体力や健康などの不安も上積みされます。その時代を見すえれば、今から従事者プランの土台を作り、進化させることが不可欠でしょう。ICT等による一律の生産性向上ばかりが強調されがちですが、「従事者一人ひとり」に対応した業務環境の改善を強化することが求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。