コロナ禍で揺れた介護・医療の住み分け

イメージ画像

2020年度の介護給付費実態統計では、新型コロナの感染拡大の影響から通所系・短期入所系サービスの受給者が大幅に減少しました。一方で、受給者数が大きく伸びたサービスもあります。たとえば訪問看護や居宅療養管理指導、看護小規模多機能型など。いずれも医療・看護が主体となったサービスです。

際立つ、訪問看護と居宅療養管理指導の伸び

名寄せをした実受給者数で見ると、訪問看護等の2019年度比の具体的な伸びは以下のようになっています。訪問看護で+8.6%(6万4000人増)、居宅療養管理指導で+8.1%(9万1500人増)、看護小規模多機能型(短期利用以外)で+16.5%(3400人増)。看護サービスが含まれる定期巡回・随時対応型も、+12.4%(5200人増)となっています。

特に、訪問看護と居宅療養管理指導の伸びの著しさが目立ちます。ちなみに訪問介護も例年より伸びていますが、実受給者数は+1.1%(1万5400人増)にとどまります。増加人数でいえば、訪問看護はその4倍、居宅療養管理指導は約6倍です。

単純に考えれば、新型コロナ禍による通所・短期入所系の減少分が移行したことになるのかもしれません。しかし、それだけでは説明できない要因も浮かんできます。

通所・短期入所控えが吸収されただけか?

通所・短期入所系で療養・リハビリニーズの高い人が利用するといえば、通所リハビリや短期入所療養介護です。今統計の実受給者数では、通所リハビリで-5.8%(3万6900人減)、短期入所療養介護で-20.8%(3万1000人減)となっています。両者を合計すると、6万7900人減となります。

対して、訪問看護と居宅療養管理指導の実受給者数増の合計は15万5500人。通所リハビリ・短期入所療養介護からそのまま移行したとしても、そこから8万7000人以上がさらに上乗せされたことになるわけです。

「新型コロナの感染拡大により、医療・看護職がかかわるサービスのニーズが拡大した(感染拡大地域などで、訪問介護等の感染対策が追いつかなかった)」などの見方もあるでしょう。実際、短期入所生活介護の実受給者は9万8800人の減少なので、そのニーズが吸収されたという分析が妥当かもしれません。

ただし、もう1つの可能性も頭に入れる必要があります。それは、「医療機関への通院控え」という状況が重なることで、訪問看護や居宅療養管理指導へのニーズが押し上げられた部分もあるのではないかという点です。

利用者の「受診動向の変化」も影響したか?

厚労省のデータによれば、最初に緊急事態宣言が出された2020年4・5月の時点で、外来のレセプト件数は、前年同月比で20%ほど減少しています。その後いったん感染状況は収まりますが、それでも前年同月比10%減ほどの状況が続きました。その背景には、患者の「医療機関の待合室などで感染する不安」があげられます(日本医師会調査より)。

「通院を控える」となればオンライン診療という選択肢がありますが、継続的な診療が必要となる場合に、「これを機に」という流れで訪問診療などが行われるケースも見られます。その際に、居宅療養管理指導等が行われることも考えられます(医師または歯科医師による居宅療養管理指導は、同一日に訪問診療または往診を行なった場合に算定される)。

もちろん、このあたりの実態把握にはさらなる調査が必要です。いずれにしても、訪問介護と比較して訪問看護や居宅療養管理指導がこれだけ伸びているという事実を見れば、要介護者の「受診動向の変化」なども、少なからず影響していると考えていいでしょう。

このように、新型コロナの感染拡大のような緊急事態下では、医療をはじめ他の社会保障の動向により、介護保険の財政状況が揺さぶられる状況も起こりうるわけです。

コロナ禍だけではない医療側の動向の影響

介護保険の給付増をめぐっては、医療から転嫁された分も大きいという指摘がたびたびなされてきました。医療病床から介護医療院への転換などもその一つでしょう。

加えて、介護保険内での「訪問看護や居宅療養管理指導の伸び」も無視できません。今回のコロナ禍に限らず、病床再編による療養ニーズの高い患者の退院促進など、「医療側の動向」も大きく影響していると考えられます。

もちろん、ニーズが高まれば、サービスの整備が最重要なのは言うまでもありません。問題は、そうした社会保障全体の構造変化が考慮されずに「介護給付費の抑制」が進めば、他のサービスにしわ寄せが及ぶことです。

たとえば、医療・看護職がかかわるサービスが「コロナ禍などの緊急事態では特に欠かせない」という観点から、「聖域化」を強める可能性もあります。そうなると、コロナ禍での財政状況の悪化は、訪問介護・通所介護などの給付抑制に直結しやすくなるわけです。

今こそ必要!?介護と医療の審議会の合同会合

この点を考えた時、感染状況は落ち着いている今だからこそ、介護と医療にかかる財政面での住み分けを整理する機会が必要です。介護・診療報酬のダブル改定時には、「中医協と介護給付費分科会の打ち合わせ」が催されています。ダブル改定はまだ先(2024年度)ですが、新型コロナ禍での総括の意味を含めて特別会を開催してはどうでしょうか。

感染症の拡大だけでなく自然災害も含めた緊?急事態下では、介護・医療それぞれに重要な役割を担わなければなりません。どちらかがはじき出されるだけの構図では、国民の安心と安全の設計は成り立ちません。限られた財源をどう使うのかについて、両者の認識のすり合わせを地道に図る機会が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。