ケアマネ処遇のカギは ケアマネジメントの再評価に

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政府が過去最大の55.7兆円におよぶ経済対策を閣議決定し、「公的部門における分配機能の強化」として「介護従事者等の収入の引き上げ」が掲げました。この動きを受け、さまざまな職能・業界団体による政府への要望も活発になっています。今回の施策において、ケアマネはどう位置づけられるでしょうか。

日本協会の要望書は大きな一歩となるか

今回の経済対策に先がけ、介護従事者等の賃上げに向けた公的価格評価検討委員会がスタートしています。ニュースでも上がったとおり、日本介護支援専門員協会(以下、日本協会)が「上記検討委員会においてケアマネも検討対象職種に加える」よう、要望書を提出しました。まず、この点を掘り下げます。

確かに、今回のような「公的価格の評価検討の場が設けられた」というのは、ケアマネの職能団体にとって大きなチャンスに違いありません。というのは、社会の求めるケアマネ業務の範囲が、介護保険の枠を超えて広がりつつあるからです。国が進める共生社会における包括的な支援体制の強化の中でも、世帯内の複合的な課題に対するケアマネの関与を求める流れが強まりつつあります。

そうした中、「介護報酬」の枠内で議論をするだけでは、ケアマネの実質的な実務を評価することはいずれ難しくなるでしょう。となれば、ケアマネに支払われる報酬についても異なる制度間に横軸を通した議論が必要になります。その点で、今回の日本協会の要望書は先々を見すえた大きな一歩といえます。

制度横断的な実務の評価が進むとなれば…

ただし、仮にケアマネが検討対象職種になったとして、議論の展開によっては「諸刃の剣」になりかねない点に注意が必要です。

それは、ケアマネ業務が「制度横断的」に包括的なものととらえられた場合、国が果たして適正に評価するのかどうかについて疑念が付きまとうからです。たとえば、介護保険を離れた部分では、ケアマネ業務にかかる法的根拠が一気に弱くなります。つまり、包括的という名のもとに、政府による予算上のフリーハンドが強まりやすいわけです。

ここに、社会保障にかかる財政の効率化を図りたい財務省などの意向が強くかかわってくると、以下のようなことも考えられます。

現状の介護報酬による賃金水準よりも、少しアップさせる。その分、他制度にかかるさまざまな業務も際限なく上乗せする─という具合です。そうなると、ケアマネの収入増は図れたとしても「業務負担と収入のバランス」が大きく崩れることになりかねません。

「業務範囲のタガ」を外さないために

もちろん、「現行の介護保険内でも負担と収入のバランスは崩れかかっている」という見方もあるでしょう。2021年度改定での利用者への説明責任の拡大などは、果たして基本報酬のアップに見合うのかという話もあります。

とはいえ、それでも基本報酬は一応アップされたわけですから、介護報酬内での調整は行われています。これが介護報酬の体系から外れるとなれば、タガが外れることで、財源を別とした包括報酬のもと他のあらゆる制度のしくみを担わされる可能性もあります。

たとえば、医療においても地域包括ケアシステムのもとで、患者の社会参加をうながす「社会的処方」という考え方が浮上しています。この制度化を推し進めた場合に、医療機関に担わせるのかとなれば、医師会等の職能・業界団体との調整が課題となります。そこでは包括支援の一環として、医療機関が担う新たなソーシャルワークをケアマネが担うという流れが生じる可能性もあるでしょう。

このように「ケアマネ業務の範囲」のタガが外れるという状況を防ぐには、ケアマネが担う社会的役割を整理しつつ、しっかりとした評価を確立することが欠かせません。その前提となるのは、「ケアマネジメントとは何か」という土台を改めて固めることです。

業務拡大下でケアマネを守る新たな法律を

今回の公的価格評価検討委員会で、そこまで踏み込んだ議論が行われるかといえば、あまり大きな期待は持てないかもしれません。これからの社会保障の設計にもよりますが、政府内において「ケアマネは多様な制度をつなぐ調整役」というレベルの認識にとどまるとすれば、ケアマネジメントにかかる専門性という議論は極めて薄くなるからです。

となれば、職能団体としても、新時代に向けた「ケアマネジメントの社会的価値の創出・向上」を積極的に掲げていくことが必要になります。介護保険外の包括的な実務が視野に入るのであれば、介護支援専門員基本法のような新たな国会制定法も望まれます。

その基本法の中でケアマネジメントの社会的価値についてきちんと定義し、それを担うケアマネへの適正な報酬と育成のあり方を規定するわけです。国会制定法は行政府の動きに一定の枠をはめるわけですから、ケアマネを「包括的に使える便利な存在」といったフリーハンドを規制することもできます。

公的価格評価検討委員会の議論には注目するとして、「これからのケアマネの役割」を見すえるのであれば、職能団体としてももう一歩の踏み込みが求められます。地域のケアマネ連絡会なども、地域の枠を超えて連携しながら「ケアマネの未来像」について議論してみてはいかがでしょうか。職能全体でそうした「うねり」を見せることも、新たな人材を引き寄せる力になるかもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。