年金減額や物価上昇、医療費負担増 ──高齢者生活に押し寄せる複合要因

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2022(令和4)年度の年金の改定額が公表されました。4月から(支給は6月)の国民年金・厚生年金の改定率は、2021年度から0.4%の引き下げに。一方、このタイミングで注意したいのは、物価が急速に上昇していることです。介護現場としても、気になる課題です。

過去の実質賃金と物価変動による改定率だが

0.4%の引き下げというは、名目手取り賃金変動率に従ったものです。この名目手取り賃金変動率とは、過去3年間(2018年度前から2020年度まで)の実質賃金の変動率(マイナス0.2%)に、2021年の物価変動率(マイナス0.2%)を加えたものです。ちなみに、本来であれば2019年度の可処分所得割合変化率も加わりますが、今回はこの数値が0なので、結果としてマイナス0.4%のままとなります。

この引き下げにより、具体的な支給額はどうなるでしょうか。たとえば、新規裁定年金(新たに受給し始める際の年金額)の場合、国民年金(1人分)で月あたり259円の引き下げ(6万5,075円→6万4,816円)。厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)で月あたり903円の引き下げ(22万0,496円→21万9,593円)となります。

ここへきての急速な物価上昇に注意すべき

金額的には「わずか」という印象があるかもしれません。しかし、ここ数年では2021年度でマイナス0.1%、その前年、前々年はプラス改定となっています。それが、ここへきてコロナ禍による賃金減などの影響を受けて、一気にマイナス0.4%となったわけです。

特に国民年金(基礎年金)のみで生活する高齢者の場合、多かれ少なかれ「生活防衛」の意識が高まることは間違いないでしょう。

加えて注意したいのが、冒頭でも述べた物価上昇です。総務省統計局の消費者物価指数のデータによれば、2021年10月から12月にかけての対前年同月比の指数(総合)は、0.1→0.6→0.8と上昇し続けています。

前年の同時期はコロナ禍等で指数が落ち込んでいるので、その揺り戻しと考えれば「さほど大きな影響はない」との見方もあるかもしれません。しかし、上昇スピードの速さに加え、世界的なオミクロン株の感染拡大による各種供給の落ち込みや円安、原油高などが組み合わさる中、年明けからの物価上昇を実感されている人も多いのではないでしょうか。

10月からは75歳以上の医療費負担もアップ

こうして見ると、さまざまな要因が複合することにより、高齢者の生活防衛意識はこれからも一気に高まる可能性があります。さらに10月からは、一定以上の所得がある75歳以上の人の医療費の窓口負担が1割から2割となります。「コロナ禍での重症化リスクなどを考えれば、持病の管理はしっかり行ないたい」という意向も強く出てくるでしょう。

こうして見ると、さまざまな要因が複合することにより、高齢者の生活防衛意識はこれからも一気に高まる可能性があります。さらに10月からは、一定以上の所得がある75歳以上の人の医療費の窓口負担が1割から2割となります。「コロナ禍での重症化リスクなどを考えれば、持病の管理はしっかり行ないたい」という意向も強く出てくるでしょう。

気になるのは、こうしたさまざまな状況下で、10月からの介護職員等の処遇改善が報酬改定によって行なわれることです。確かに、過去の処遇改善加算等と比べれば加算率はわずかです。しかし、すでに述べたような各種要因が絡んだ場合、利用者側の受ける印象は、これまでと変わってくる可能性もあります。

高齢当事者の団体からも懸念する意見書が

ちなみに、介護給付費分科会では、委員を務める数少ない当事者側の団体として全国老人クラブ連合会が、以下のような意見書を出しました。そこでは、処遇改善策自体は評価する一方で、新たな加算が利用料や保険料に反映されることへの懸念が述べられています。

そのうえで出されているのが、2つの要望です。(1)10月以降の処遇改善について「財源確保が保険料・利用料の負担増につながることのないよう配慮すること」。(2)社会保障制度の改正にあたっては、「高齢者の生活実態を踏まえ、収入(年金)と負担(介護や医療等の保険料・利用料)との均衡がとれた調整を図ること」というものです。

恐らく、こうした当事者団体の要望の先には、今年の介護保険部会の論点ともなりえる「介護保険の2割負担の範囲の拡大」へのけん制も入っていると思われます。

いずれにしても、利用者側の生活防衛意識が高まる中での「利用者負担に影響を与える期中改定」は、利用者側と従事者側の関係性に影響を与えることになりかねません。従事者側にとって、今回の賃金アップ額への評価も揺れ動きがち(居宅ケアマネ等が対象にならないといった点なども含む)な中、利用者・従事者双方に微妙な空気も生じがちです。

もちろん、プロの介護従事者としては、それでもサービス提供には真摯に臨むことでしょう。しかし、上記のような空気が晴れないままでは、コロナ禍の厳しい環境も含め、従事者の意欲に大きなキズを残すことになりかねません。今回の処遇改善を「報酬改定で行なうこと」が、果たして適切なのかどうか。今後の年金減や物価上昇等が高齢者の生活にどのような影響を与えるのかを精査しながら、再検討を行なうことも必要になりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。