DXによる人員基準の緩和策。 内閣府が敷いた「レール」に注意

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日本経済団体連合会(経団連)が、デジタル革新(DX)によるヘルスケア分野の改革にかかる提言を公表しました。介護分野では、デジタルテクノロジー等の活用を前提とした介護施設の人員基準緩和も打ち出しています。こうした提言が、2024年度改定などにどのような影響を与えていくのかを掘り下げます。

3つのステップからなる経団連の提言

今回の経団連提言については、1月19日の内閣府の「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ‘(WG)」でも、整理された資料が提出されています。経済団体による提言というだけでなく、内閣府の施策へと将来的に反映される流れにあるわけです。

この点を頭に入れつつ、今提言の概要をもう一度整理しておきましょう。以下の3つのステップから構成されています。

(1)介護事業所で使用するデジタルデバイスの標準化……ここで言うデジタルデバイスとは、パソコンやスマホ、タブレットなどの情報端末に加え、それらに搭載・接続して使用する各種業務システムや見守りセンサー、介護ロボットなどを総称したものです。

(2)テクノロジー活用を積極的に評価する新たな介護品質評価基準の策定……この場合の「評価基準」とは、介護事業者に対して定められるものです。これを国として定めるとなれば、介護報酬における加算要件の設定に反映される可能性もあります。

(3)介護施設人員基準3:1の見直し……提言では「一律に」としているわけではなく、あくまで「利用者にとっての品質確保」「職員の負担軽減」「テクノロジー・データ活用による業務時間の削減効果」が認められる場合に、その「改善効果」の範囲内で配置すべき人員の基準を見直すべきというものです。

規制改革会議が打ち出したサ高住の先行改革

上記を3つのステップとした場合、以下のように考える人も多いでしょう。それは、「すべてが2024年度改定で実現されることはないのでは…? 特に(3)については、事業者・職能団体からの懸念も強いので、社会保障審議会(介護保険部会や介護給付費分科会)でも議論は紛糾するはず」という具合です。

確かに、(3)の導入には「改善効果」の確認が前提となるので、(1)、(2)を進めたうえで検証事業を経るという流れが想定されます。となれば、(3)が実現されるとしても、次の改定より後ということになるのかもしれません。

しかし、注意しなければならないことがあります。それは、昨年12月に内閣府が示した「当面の規制改革の実施事項」に、上記の(3)にもつながる改革案が示されていること。それは、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)における有資格者の常駐要件の見直し」です。

サ高住では、安否確認と生活相談のサービス提供が必須となっています。さらに、両サービスは、医療・介護の有資格者(現状で介護福祉士が約7割)が少なくとも日中建物に常駐して提供することとなっています。

給付費分科会の議論にどのような影響が?

上記の規定について、課題となっているのが、やはり「有資格者不足」です。これについて、「入居者の安全・安心および居住の安定を確保すること」を前提としつつ、「デジタル技術活用などを踏まえた見直しの検討を行ない、必要な措置を講ずる」としています。

対象が介護保険法で定める施設等ではなく、あくまでサ高住ですが、「デジタル技術活用による人員基準の緩和」という点で、経団連の提言を彷彿させるものです。そして当改革案では、具体的な改革のスケジュールとして、「2021年度に検討を開始し、結論が得られ次第速やかに措置する」としています。

このスケジュールを沿えば、2024年度の介護報酬・基準改定よりも1年ほど早くなる可能性があります。つまり、サ高住側での登録要件の緩和が先行することで、介護保険側の改革に対して一定のレールが敷かれることになるわけです。2023年にもスタートする「基準改定等にかかる介護給付費分科会の議論」にも影響を与えることになるでしょう。

「三位一体」での一気改革となる可能性も

もちろん、ステップ的には、先の(1)、(2)が施行されなければ(3)に踏み込むことはできない──というのが自然な考え方です。しかし、上記のような内閣府主導での改革が進むとなれば、(1)~(3)の「三位一体の改革」の流れに突き進むことも想定されます。

特に、昨年設置されたデジタル庁が「省庁横断型の改革」を鮮明に打ち出している中では、厚労省側の慎重論が(内閣府主導で)一蹴されてしまう可能性もあるでしょう。たとえば、介護保険法などに手を入れて「デジタル庁の権限」が強化される──といった動きにも注意する必要がありそうです。

いずれにしても、(3)だけでなく(1)と(2)の内容も一緒に注意を払うことが必要です。(1)の標準化については、国の委託による第三者機関による認証が提案されています。これを前提として、(2)の評価基準を適用する流れが想定されます。となれば、(1)→(2)を要件とした新加算や(3)の緩和措置の導入というのが、具体的な施策として浮かび上がります。

(3)の基準緩和が、現場負担をかえって増やすことにならないかどうか──これを検討すると同時に、(1)(2)にかかる内閣府の提案にアンテナを張り、それが本当に「現場の実情」に合った施策なのかどうかを見極めることも必要です。「デジタル化の推進ありき」という、本末転倒には十分注意しなければなりません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。