利用者の重症化はさらに進む⁉ 問われる「非常時の人材確保策」

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新型コロナウイルスの第6波によるクラスターが増える中、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が「オミクロン株の特徴を踏まえた感染防止策」を示しました。高齢者施設などクラスターの発生しやすい状況に対し、事例を踏まえた対応策を打ち出しています。

分科会提言を現場で実現するうえでの課題

オミクロン株を主流とする第6波については、第5波を超える感染拡大の中で、重症者や死亡者が目立ち始めました。当初は重症化しにくい若い世代への感染が主でしたが、ここへきて基礎疾患のある高齢者などへと感染が拡大していることが背景にあります

仮に全体的な感染状況が落ち着いたとしても、特に介護現場などの利用者の重症化リスクは、その後も深刻化する可能性があります。今回の提言は、そうした状況を踏まえたものですが、ここで示された「レクリエーション時のマスク着用(利用者への着用促しも含む)」や「通所等での送迎時の窓開け」などは、言われるほど徹底は簡単ではありません。

たとえば、認知症の人へのマスク着用の促しなどは、過去の感染拡大下でも対応の難しさが指摘されていました。送迎時の窓開けも、冬場の降雪量などが増える地域では、冷え込みによる利用者の体調悪化も懸念されます。

再び「サービス休止」等が急増する懸念も

上記のような課題について、国はBCP(業務継続計画)の随時の見直しや感染制御・業務継続支援チームの派遣などによる対応を進めようとしているのかもしれません。しかし、BCPの見直し自体が現場の実務増につながりかねず、支援チームの助言・指導を受けたとしても、(職員の子どもの保育所休園などの影響で)それに対応できる人員が限られるなどの状況が、大きな壁となる懸念もあります。

結果として、通所系などにおいてサービスの休止(あるいは送迎など部分的な機能の停止)などが、今後再び増えてくる可能性があります。施設や居住系のサービスでも、利用者に十分なケアを行なえない場面も生じてくるでしょう。それによる利用者の状態悪化が進めば、地域の介護機能はマヒしかねません。

また、介護現場は「療養支援」の機能も有しています。その点を考えれば、持病の悪化→新型コロナウイルス感染による重症化リスクの増大という悪循環も生じる恐れがあります。介護崩壊のみならず、医療崩壊にもつながるという危機感が共有されるべきでしょう。

たとえば、応援派遣等は機能しているのか?

上記のような事態を防ぐために何が必要なのかを考えた場合、「現場だけでできること」は残念ながら限られるのが現状です。

もちろん、国としてもそれなりに手だては尽くしています。一例として、国は2月8日付けで、高齢者施設で感染した入所者への看護師派遣の単価を1.5倍に引き上げました。また、利用者および従事者へのワクチン接種の推進や集中的実地計画にもとづく頻回検査などを打ち出しています。しかし、介護現場の従事者に対する日常的な実務サポートについて、めぼしい上乗せ策は見られません。

たとえば、第5波までの「応援職員等の派遣」や、その中での課題(地域全体に応援派遣をする余裕がない、派遣された職員と現場との連携が十分に機能しないなど)をしっかりと検証するべきでしょう。そのうえで、応援派遣に際しての「かかり増し経費」だけでなく、派遣職員や受入れ側の職員の実務負担の実態を精査したうえで、直接的な上乗せ給付などを行なうことも考えられたはずです。

介護現場に対して、これまでの施策をただ延長するだけでは、これから本格化する危機を乗り越えるだけの「勇気」は、現場からなかなか生まれてこないのではないでしょうか。

経営概況調査は現場のコロナ実態に迫れるか

これから先の感染状況の行方にかかわらず、いずれにしても必要になるのは、「非常時にもサービスの停滞が生じないようにする」ための介護サービス基盤の強化です。その強化の中心は、言うまでもなく、先の「応援派遣」などが円滑に機能するだけの「常に非常時を見すえた人材の育成・確保」でしょう。

労働力人口が絶対的に減少しているとはいえ、介護サービス基盤を「国として優先する社会資源」と明確に位置づければ不可能ではないはずです。優先的な施策課題と位置づければ、「非常時を見すえた介護人材の育成・確保」の部分を介護保険から切り離し、広く公費でまかなう方法も検討されるべきでしょう。

そのためにも、コロナ禍における現場の実務状況をより深く検証することが欠かせません。現在、介護給付費分科会では、2022年度の介護事業経営概況調査の実施案が議論されています。そこでは、「新型コロナウイルス感染症の(2020、2021年度の)決算額への影響」を分析する項目を設けるとしています。それ自体は望ましいことですが、事業運営への影響については、「陽性者・濃厚接触者の発生」や「サービスの休止状況」などにとどまっているのが気になるところです。

先に述べた応援派遣の利活用や現場の実務負担の増加など、従事者がどのような点を重荷と感じていたのかを掘り下げることで、「潜在的なコストの状況」なども浮上してくるのではないでしょうか。それが明らかになってこそ、非常時における「必要な人材像と、その人材をどの部分にあてるか」という施策も組み立てられていくはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。