先進的な取組み下での人員基準の緩和。 現場従事者の意は反映されるか?

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介護現場の人員配置基準は、今後どうなっていくのでしょうか。政府の規制改革推進会議が、「先進的な特定施設(介護付き有料老人ホーム)の人員配置基準について」と題した議論のとりまとめを示しました。あくまで「特定施設」が対象ですが、「特例アプローチ」について、それ以外の介護施設においても「摘要可能である」ことを求めています。

来年の分科会議論に反映される実証データ

今回の取りまとめを通じ、規制改革推進会議は厚労省に改めて「実証」を求めました。実証予定は4月頃としていますが、厚労省の提示スケジュールでは6・7月の実証スタートとなっています。そのうえで、結果の取りまとめが来年1~3月。この流れだと、来年中盤からスタートが予想される介護給付費分科会で結果が提示されることになるでしょう。

厚労省が進めようとしている実証テーマは4つ。(1)見守り機器等を活用した夜間見守り、(2)介護ロボットの活用、(3)介護助手の活用、(4)介護事業者等からの提案手法です。それぞれについて、「介護職員の業務内容・割合がどのように変化したか」、「ケアの質が適切に確保されているか」、「介護職員の働き方や職場環境がどう改善したのか」を調査します。

上記の中から、今回の取りまとめで、特に重点的な検証を求めているのが「介護(ケア)の質」と「介護職員の負担」についてです。

「基準緩和のための実証」という位置づけ

前者については、利用者の状態変化や日中の活動量の増減、事故等の発生状況などが想定されています。これらについて、「LIFEの項目も参考にしながら評価することが考えられる」という提案もなされています。

一方、後者については、介護職員の身体的負担だけでなく心理的負担にも踏み込むことが想定されています。実際の調査として、タイムスタディ調査、アンケート調査、ヒアリング調査の実施等が考えられるとしています。

先進的な取組みと従事者負担の関係がどうなっているのかについて、調査を本格的に実施すること自体は歓迎すべきでしょう。ただし、この調査については、あくまで「人員配置基準の柔軟化」に向けて「問題がない」かどうかを探ることが目的となっています。

もちろん、取りまとめでは「一律に変更することは現実的でない」とはしています。しかし、「特例が認められた事業者についての介護報酬の切り下げを回避する必要がある」としつつ、「順次、日本全国に展開していく」というアプローチも明記されています。

「緩和を求める姿」が進路志向に与える影響

もともと、事業者としては「募集しても従事者が集まらない(労働人口の減少で、今後はさらに厳しくなる)」ことへの危機感があります。その点では、人員基準に抵触しないような、かつ、介護報酬切り上げにつながらないような特例への対応意欲は大きいでしょう。

問題は、現場の従事者側がどう考えるかです。仮に早期から先進的な取組みを行なってきた現場で、従事者側もその効果を実感していたとしても、「人員基準の柔軟化」が前面に打ち出されれば、「順番がちょっと違うのではないか」と考える人もいるでしょう。

現場従事者としては、先進的な取組みによって業務負担の減少を実感できたとして、その分「ケアの質の向上」に向けた取組みに注力できる──これが本筋と考えるはずです。

その「ケアの質の向上」により、利用者の重度化防止や事故等の防止を進めることができれば、(1)業務への達成感が高まる、(2)入院等のリスクが減って収益が上がる、(3)利用者によってはケアの手間がさらに軽減される──という具合に、職場環境に良循環が形成される期待も高まることになります。

この期待が社会全体で共有されてこそ、「新たに介護業界を目指す」という進路志向の底上げにつながるはずです。ところが、この共有が十分進まないうちに「人員基準の柔軟化」が打ち出されてしまうと、かえって進路志向に大きなダメージを与えかねません。

「現場が望む働き方」の調査項目への反映を

確かに、従事者不足は喫緊の課題であり、すぐに制度上の対処を要するという事業者側の危機感も分からないではありません。問題は、そこで「人員基準の柔軟化」に前のめりになったとき、現場(および介護業界を目指す若い世代)にとって、果たして「前向きなビジョンが描けるか」ということです。

今必要なことは、今回のような調査を行なう場合に、「現場従事者が望んでいる働き方」をもっと明らかにすることでしょう。たとえば、先のアンケート調査やヒアリング調査において、身体的負担や心理的負担とともに「制度上で望むこと(仮に、国が人員基準の緩和に踏み込むとして、現場としてどう考えるか)」を把握する作業を追加することが望まれます。

そもそも、コロナ禍(第6波)において高齢者施設等でのクラスターや死亡者が急増している中、現在の介護現場の負担・不安は、これまでになく高まっています。現状でクラスターなどが発生していない現場でも、「いつ自分の職場・地域が危機に陥るか」という不安と常に隣り合わせとなっています。

この現場が抱える不安を併せて明らかにしなければ、従事者不足を解消する道筋はなかなか見えてきません。そして、現場の現状とその中で制度がどうなるのかについて、後に続く将来の従事者候補はしっかりと成り行きを見ています。その「見られていること」をしっかり踏まえたうえでの実証が望まれます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。