
厚労省より、2021年12月の人口動態統計の速報が公表されました。この12月の速報では、その1年間(2021年)の累計数値も示されています。対前年比で注目したいのは、出生数の減少もさることながら、死亡数が一気に5%近くも上昇したこと。背景として、どのようなことが考えられるのでしょうか。
2019→2020年の減少から一転。何があった?
人口動態統計の速報値は、日本における外国人、外国における日本人の事象等を含むものです。日本における日本人についてまとめたものが「概数」であり、これは5ヵ月遅れで公表されます。また、この概数に若干の修正を加えたものが年報(確定数)となります。
とはいえ、たとえば死亡数での「速報値」と「確定数」の差は1%未満なので、その年の傾向をつかむことは十分に可能です。また、速報値という同条件で、対前年およびそれ以前と比較することで、「その年」特有の状況について掘り下げることもできます。
注目したいのは、冒頭で述べた約5%増という死亡数の急増です。2017年からの流れで見ると、2020年までが1.7%→1.4%→▲0.7%という具合なので、2021年の死亡者数の伸びの大きさが分かると思います。なぜ、これだけ急増したのでしょうか。以下に、コロナ禍に関連した1つの仮説を示してみましょう。
初期コロナ禍での影響が遅れてやってきた?
注目したいのは、新型コロナウイルス感染症が最初に拡大した2020年に、対前年比で死亡数が減少したこと(▲0.7%)です。団塊世代が70歳前後を迎え、「多死社会」の到来が声高に指摘されてきたのはご存じのとおりです。にもかかわらず死亡数がマイナスに転じたわけで、コロナ禍で国民の健康危機が叫ばれる中での状況という点も含め、何が起こっているのかに関心が集まりました。
よく指摘されるのが、コロナ禍で社会における感染防止の意識が向上し、季節性インフルエンザなど、その他の感染症も抑えられたという点です。たとえば、手洗いやうがい、マスク着用の励行はもちろん、生活行動の自粛によって他者との接触機会が減少すれば、確かに各種感染のリスクは減少します。
しかし、ここで注意しなければならないことがあります。それは、感染防止の意識が高まったと同時に、(特にコロナ禍初年において)医療機関の受診も抑制されたり、重度化防止や療養管理の役割を果たす各種介護サービスの機能も大きく阻害されたことです。
これらの影響が、やや遅れて2021年から徐々に現れてきたのではないか──それが、2020年の反動とも言える死亡数の急増に結びついた、という仮説が浮かんできます。
実は、介護サービスの機能低下の影響も甚大
その兆候は、すでに2020年の「死因」に垣間見ることができます。たとえば、心疾患や脳血管疾患、そしてコロナ禍にもかかわらず肺炎などの死因が大きく減少する一方で、「誤嚥性肺炎」が大きく伸びています。
心疾患や脳血管疾患は、高血圧症や糖尿病などの持病が背景にあるケースが多いでしょう。その療養に関して「受診控え」はリスクとなりますが、必要な薬が処方されていれば、ある程度は悪化を抑えることも可能です。
一方で、「誤嚥性肺炎」の場合、日常的な口腔ケアや嚥下訓練が発症防止のカギとなります。その日常的なケアの多くを担うのは、やはり介護サービスです。その提供が困難になれば、発症リスクも高まることになります。
介護サービスの重要性はこうした点にもうかがえるわけで、コロナ禍で医療だけの支援を手厚くしても、高齢者の健康を維持することは困難です。つまり、2021年の死亡数急増は、医療だけでなく介護に対する国のサポート不足も要因となっている可能性があるわけです。この点を考えれば、多死社会と国の施策のあり方の関係も問われてくるでしょう。
死亡場所の病院外移行もさらに加速している
2021年の死亡数の急増が、コロナ禍で介護・医療の機能が損なわれたことを遠因としているとすれば、断続的な感染拡大が続く中で2022年以降も死亡数増加のペースは衰えを見せない可能性も高くなります。
むしろ、ここに団塊世代が75歳に差しかかるタイミングがプラスされれば、増加ペースはさらに上回るかもしれません。ちなみに、国の「死亡数の将来推計」では、2020年から2025年までの伸び率は8%程度となっていますが、すでに最初の1年で約5%ですから、国の推計を上回ることは確実といえます。
そこで気になるのは、「亡くなる場所(死亡場所)」です。実は、2020年の人口統計(確定数)における「死亡場所別の割合」を見ると、「病院・診療所」の医療機関で69.9%と34年ぶりに7割を切りました。しかも前年(2019年)から▲3ポイントと、ここ数年ないペースでの減少となっています。
一方、「自宅」は15.7%(対前年比2.1ポイント増)、「老人ホーム」は9.2%(対前年比0.6ポイント増)と、これも近年にない伸び率となっています。死亡数にして、前者で約2万8,000人増、後者で約7,400人増、合計は1年で3万5,000人を上回る増加となります。
このように、2022年以降の推計を上回る死亡者の伸びに、医療機関以外での死亡増が一段加速するトレンドが加わるとします。そうなれば、介護現場での「看取り」にかかる負担は、2021年度改定時の想定をはるかに上回ることになりかねません。10月からの介護報酬の期中改定が、それを見込んでいるのかどうか。改めて検証が必要になりそうです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。