オミクロン株を主流とした新型コロナウイルスの感染拡大では、依然として新規陽性者数が高止まりしています。入院治療を要する人の数もピーク時で第5波の4倍に達し、介護サービスの機能低下は施設・在宅問わず深刻です。仮に第6波が収束したとして、次の波が訪れた際にどこまで介護資源の立て直しが可能なのか。検討すべき課題は尽きません。
第5波の比ではない危機がますます明らかに
ここへ来て、業界・職能団体から政府や与党等への要望が急速に増えてきました。それだけ現場が立ち行かなくなってきている証といえます。感染力の高いオミクロン株の感染拡大が始まったとき、現場に与える影響は第5波の比ではないという予測も数多く見られましたが、その通りになってきたといえます。
国の対応はこうした危機予測に見合っているのでしょうか。確かに、診療報酬側への対応はそれなりに進んでいます。たとえば、訪問看護では、第5波時に以下のような「診療報酬上の臨時的取扱い」が示されています。
まず、8月4日付けで、自宅・療養宿泊患者に対しての訪問看護提供で「時間」を問わず、長時間訪問看護加算(5,200円)の算定を可能としました。その約2か月後の9月28日付けでは、同加算を3倍の15,600円に引き上げています。迅速かつ思い切った対応が、診療報酬上では行なわれているわけです。
これまでの総合確保基金での支援策を整理
対して、同じ在宅を支える介護保険の訪問介護では、地域医療介護総合確保基金(介護分)を活用したしくみが中心となっています。
ご存じの通り、先の介護報酬改定では「新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価」として基本報酬に0.1%の上乗せが図られました。それが昨年9月末で期限を迎えた後、上記の基金による特例評価へと切り替えられました(訪問介護で最大2万円)。ただし、昨年12月末までの物品等のかかり増し経費を対象とするしくみにとどまります。
現状の感染拡大下においては、「緊急時介護人材確保・職場環境復旧等支援事業」の枠組みが中心となります。この中で、職員の感染「等」による人員不足にともなう介護人材の確保の一環として「割増賃金・手当」が対象経費となっています。国会の厚労委員会では、このスキームを「感染者や濃厚接触者に対応した場合」に活用できることが明らかにされ、3月4日には通知も出されています。
現状を踏まえたうえでの追加的施策はあるか
通知内のQ&Aでは、「基準額を上回る場合での個別協議」や「医療機関や保健所からの証明書提出の不要(経緯報告等のみ)」などがかかげられています。訪問介護の基準単価は32万円で、昨年4月までさかのぼって発生した経費としてあてることが出来ます。
こうしたしくみの活用は、厳しさを増すサービス提供にとって一定の支えにはなるかもしれません。その点では、これまで制度を十分に把握していなかった事業所でも、今回の通知を機に積極的な活用が望まれます(自治体によってはHP上で「申請締め切り」となっていますが、次年度も継続される予定です。HP等の更新情報に注意してください)。
しかし、これまでとは比較にならない規模の感染拡大が現に進んでいる一方で、上記のしくみは「それ以前」の状況が前提となったものです。その点では、現状を踏まえたうえで追加的な施策も当然ながら欠かせません。
先の診療報酬上の対応は、第5波時点ではありますが、今年に入っての状況を見すえたという先手施策の一つととらえることもできるでしょう。となれば、介護保険による訪問系サービスについても、少なくとも今回の第6波の状況を見すえたうえで、介護報酬上のさらなる特例が求められそうです。
介護保険法に緊急条項を設けるという選択肢
ただし、こうした報酬上の特例の場合、利用者負担も同時に増えることが大きなネックとなります。そのためにサービスの利用控えが加速すれば、事業所の経営状況はさらに厳しくなるという悪循環を招きかねません。
そうなると、公費による大規模な経営補償といった議論が中心となるのかもしれません。一方で、幾度となく訪れる感染拡大を振り返ったとき、国民のセーフティネットという観点から「より機動性の高いしくみ」をここで整えておく必要もあるのではないでしょうか。
たとえば、根っことなる介護保険法について、「緊急時の条項」を設けるという方法もあるでしょう。そこで、コロナ禍のような緊急時の「介護保険の財源構成」の特例を、恒久的な法律で位置づけるというものです。ここで公費の負担割合を引き上げ、その条項の発動条件を明確にしておくという具合です。
もちろん、そのタイミングでの予算編成にも大きな影響を与えるので、財務省などが難色を示すかもしれません。しかし、コロナ禍だけでなく頻発する自然災害なども想定した場合、必要な社会保障を維持していくという観点から議論が求められるテーマといえます。
内閣府は昨年、公的価格の抜本的な見直しを含めた「公的価格評価検討委員会」を立ち上げました。その時は処遇改善のあり方に特化されていましたが、こうした場でも改めて上記のような議論ができるはずです。
今回の第6波にかかる現場の奮闘は、これまでになく長期化が予想されます。そこで少しでも踏みとどまるための「希望」を、国が大胆に提示できるかどうか。時間はあまり残されていないのかもしれません。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。