LIFE活用に明確な「NO」が一定数。 コロナ禍で翻弄される科学的介護

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3月7日に開催された介護報酬改定検証・研究委員会で、LIFEにかかる調査結果が示されました。LIFE登録にかかるアンケートのほか、居宅介護支援等を対象としたモデル事業の状況も示されています。現段階でどのような課題が浮かび上がっているでしょうか。

「活用の意思なし」が固定化される懸念も

注目したいのは、LIFE未登録(活用していない)事業所へのアンケート調査です。その中で、今後の活用意向についてのデータがありますが、「活用したいと思わない」が3割を占めています(それ以外は、アカウント申請済か否かにかかわらず「活用」の意思あり)。

調査時期は昨年の10~12月なので、LIFE関連加算の施行から半年以上が経過しています。そのタイミングで、いわば「申請の予定もない」というのは、ネガティブな反応としてはかなり強いと言わざるをえません。

ちなみに、昨年9月時点でのLIFE関連加算の算定状況は、通所介護で約3割、特養ホームで約5割となっています。たとえば、通所介護で算定していない事業所割合が約7割ですから、「活用の意思なし」は同サービス全体で2割に達することになります。

そのうえで、平均利用者数を見ると、「算定あり」の事業所の方が「算定なし」よりも10人以上上回っています。規模の小さい事業所ほど「活用の意思なし」が強いことが想定されるわけです。事業規模(つまり、一定の環境要因)と活用の意思に相関関係があるとすれば、先のネガティブな意思表示は、今後も固定化されていく恐れもあります。

「職員の手間」がやはりネックとなる一方…

なぜ「活用の意思がない」のかという理由(複数回答)ですが、「データを入力する職員の負担が大きい」が6割超で圧倒的です。気になるのは、その次に多い「LIFEに関連する加算を算定する予定がない」(4割超)という回答です。「活用しない意思」を事業所方針として定めていることを意味します。

恐らくは、先の「職員の負担」への考慮にかかる回答との重複も多いでしょう。事業所方針として「算定しない意思」が固いとすれば、職員の負担増が加算取得による増収に「見合わない」という明確な判断が出ていることが想定されます。こうした判断を下す要因には、中長期的なビジョンと短期的な事情がありますが、直近の事情としては、やはりコロナ禍での現場事情が大きいと言えるでしょう。

調査のタイミングは、第5波の収束期にあたります。しかし、たとえば通所介護で「サービス提供・利用の再開」というタイミングに重なるとすれば、利用者の状態が悪化している(認知症BPSDの悪化も含まれる)可能性も高くなります。もちろん、ここに感染対策の強化という要素が加わります。

LIFEそのものへの信頼性が揺らいでいる!?

恒久的な従事者不足に、上記のような状況が重なれば、特に小規模な事業所は「LIFE登録」等に対応している余裕はない、しかも、その状況はしばらく続く──という見立てになることは無理ないでしょう。

とはいえ、基本報酬がなかなか上がらないという中で、今は無理でも「増収のためにいずれは対応しなければ」と考えるのが自然ともいえます。それが「活用の意思なし」となってしまうのは、上記のような事情だけではない「何か」があるはずです。

あくまで仮説ですが、そこには「LIFEそのものへの信頼性」の揺らぎもあるのではないでしょうか。これもコロナ禍での要因ですが、感染拡大下では、サービス利用はもとより日常生活にもさまざまな制限が加わっています。そうした中で収集した情報の分析が、そもそも科学的介護の推進に役立つのか──そうした疑念が生じている可能性もあります。

もちろん、「コロナ禍でのデータも、その状況を考慮すれば利用価値はある」という考え方もあるでしょう。たとえば、コロナ以外の感染症や自然災害の発生時における「利用者の状態像の変化」という視点の分析が加われば、多様な状況下での「介護サービスのあり方」を考える土台になるかもしれません。

コロナ禍でも「使えるLIFE」であるためには

ただし、そうであるなら、コロナ禍というバイアスをデータベース(DB)上でどう処理していくかを定める必要があるでしょう。それがあってこそ、「コロナ禍でも使えるDB」という納得が得られるはずです。

特に通所介護では、「利用者の状態像」について家での生活に左右される要素も大きくなります。その点で、たとえば「コロナ禍における平均的な状況」について、「感染拡大地域とそうでない地域」などに分けてフィードバックを行なうといった対応も必要でしょう。また、利用者の経時データについても、感染状況との相関関係が示される仕様があれば、「感染拡大が利用者の状態にどのような影響を及ぼしているか」も分かりやすくなります。

後者の場合は改編作業に時間はかかるでしょうが、少なくとも今後の感染拡大時に、「現場として利用者のどのような点に注目すればいいか」というヒントを浮かび上がらせることも可能です。これからの「現場の感染対策」のあり方を考えるうえでも有効でしょう。

LIFEのような新たなしくみを浸透させるには、「現場にどのようなメリットがあるのか」を、その時々の課題にフィットさせることが重要です。「現場の声に応えられるLIFE」という理念こそ、科学的介護を進めるうえで欠かせない視点と位置づけたいものです。

【関連リンク】
LIFE活用、アセスメントに平均14.6時間 21年9月分データ提出|ケアマネタイムスbyケアマネドットコム

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。