社会の多様な機関において、 ケアマネジメントが価値となる時代

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東京都が、「高齢者の特性を踏まえたサービス提供のあり方検討会」の報告書を公表しました。同検討会は、高齢者が認知機能の低下等に直面しても、買い物や金融機関の利用などを適切に行ないながら地域で生活ができるよう方策を目指したものです。ここには、ケアマネジメントの考え方も大きく絡んできます。

「気づきのネットワーク」との連携が重要に

報告書では、商店や金融機関などでのサービスのあり方だけでなく、これらの事業者が「気づきのネットワーク」を形成し、包括を中心とした「支援のネットワーク」へとどのようにつなげていくかも示しています。

居宅介護支援事業者の中には、すでに「気づきのネットワーク」に属する事業者や住民組織等との日常的な連携(情報交換など)を進めているケースも多いと思われます。ただし、利用者が普段買い物をしている商店や利用している金融機関とどのように協働していくかとなると、課題は少なくありません。

たとえば、利用者の個人情報が絡むなどのケースも多い中では、行政機関を交えて「情報共有のためのルール作り」などを定期的に検討する機会が求められます。ケアマネ等としては、対医療だけではなく、より幅広い連携を視野に入れることが必要です。

そのうえで、こうした連携環境が整う中では、ケアマネなどの専門職として特に頭に入れておきたいことがあります。

「特別な対応」が高齢者の尊厳を傷つける

それは、今回の報告書で記された「高齢者の特性」というテーマ内に、「高齢者本人の尊厳」という視点をきちんと組み込むことです。ここに、地域の高齢者支援に際し、専門職の立場から発信できる重要な価値があります。

今回の報告書でも、第5章の「高齢者へのサービス提供にあたって必要な視点」の中に、上記に関連した文言が示されています。それが、「高齢者であることのみを理由に特別な対応を取ることは、高齢者の尊厳を傷つける場合がある」ということです。

本人の尊厳保持という観点に立った場合、有効とされるのは、「適切な意思決定のプロセスを踏みながら、本人の意思決定を支援していくこと」です。ケアマネジメントにおいても、本人の意思決定を支えることで、尊厳保持を図ることは重要な軸となります。

たとえば、本人が望む生活をすべて叶えることは現実として不可能だとしても、本人の持てる力をもって「ここまでならできる」という可能性を見つけ出すことはできます。その可能性に向けた支援を行なうことが、その人らしい生活の姿へと導く道筋であり、そこに尊厳保持の扉があると考えていいでしょう。

支援の枠から「とりこぼされる」のはなぜ?

しかしながら、地域の商店や金融機関、あるいは住民組織などは、そのすべてが「その人らしい生活の姿」に寄り添い続けることは困難です。まずは、高齢者一般の認知や行動の特性を知りながら、その人に歩み寄れる可能性を高めなければなりません。

しかし、人にはもともと個別性があります。それが高齢期という時間軸とともにどう変わっていくかをとらえることで、初めてその人の尊厳が保持できることになります。

たとえば、高齢者一般の傾向だけを頭に入れて対応すると、対象者によっては「居心地の悪さ」を感じてしまうことがあります。その結果、地域にさまざまな相談窓口を備えても、それを利用する人と利用しない人で差が生じがちです。専門機関につながる人とつながらない人の格差が生まれるわけです。

もちろん、「気づきのネットワーク」に個別性への対応スキルまで求めることは難しいかもしれません。しかし、少なくとも「人には個別性・多様性がある」ことを意識できていれば、その人によって柔軟な対応を試みようという姿勢は築かれます。その積み重ねこそが、地域の中で「困っている人を取りこぼさない」ための風土につながります。

ケアマネが築いてきた価値の社会的普及を

こうした点を考えたとき、地域の多様な人々・機関が参加する「気づきのネットワーク」において、ケアマネジメントの実践事例を学ぶという機会があってもいいでしょう。たとえば、地域のスーパーや金融機関の社員研修および商工会や自治会の勉強会において、ケアマネを講師として招き、「利用者の意向把握」などをどのように進めているかといった実務例などを聞く機会が考えられます。

確かに、日々慌ただしいケアマネ業務の中で、こうした地域との接点を形成することは、なかなか難しいかもしれません。しかし、地域の中でケアマネジメントの価値への理解を深め、浸透させていくことは、長い目で見てますます重要になることは間違いありません。

近年、国はさまざまな施策において、地域共生社会の構築というビジョンを一貫して土台に敷いています。支援分野によって枠を設けるのではなく、どのような地域課題に対しても丸ごと対応する──これが大きな流れとなっています。そうなると、「課題の取りこぼし」がないようにするためのノウハウをどのように築くかがますます重要になります。

そこでケアマネジメントが活かされるとなれば、ケアマネの社会的価値を高めることにもつながります。今回の東京都が示すビジョンには、ケアマネが歩んできた道と大きく交差する部分があることに注目したいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。