自然災害が多発する中、災害発生時を見すえた多機関・多職種による地域での役割が改めて重視されています。2021年に災害対策基本法等が改正されましたが、具体的な取組み指針ではケアマネ等の役割も明記されました。先だっての課長会議でも取り上げられた「ケアマネのなすべきこと」を再確認します。
個別避難計画の作成が市町村の努力義務に
まず改正された災害対策基本法等ですが、昨年5月から施行されています。改正ポイントの1つとして、「避難行動要支援者」の円滑かつ迅速な避難を図る観点から、「個別避難計画」の作成が市町村の努力義務とされました。
ここで言う「避難行動要支援者」とは、視聴覚や知的障害、あるいは認知症等により情報の入手や発信が困難な人(日本語が分からない外国人なども含む)、身体的な障害により移動の困難な人などが該当します。当然、要介護高齢者も含まれることになります。
2013年からは、こうした避難行動要支援者の名簿の作成が、市町村に義務づけられています。今回努力義務化されたのは、こうした人々の避難にかかる個別計画のことです。
具体的には、要支援者ごとに、避難支援を行なう者や避難先等の情報を記載したものです。努力義務化前の「任意」の時点でも、約1割の自治体で作成が進んでいます。
日本協会にも取組み指針を踏まえた事務連絡
個別避難計画は地域の多機関・多職種のネットワークにより作成されます。冒頭で述べた取組み指針では、このネットワークに地域の医師会や社会福祉協議会とともに、ケアマネや相談支援専門員等も含まれています。
なぜケアマネ?という点ですが、指針では「日頃からケアプラン等の作成を通じて、避難行動要支援者本人の状況をよく把握しており、信頼関係も期待できること」を理由として上げています。また、「災害時の(避難所等での)ケアの継続にも役立つ」としています。
そのうえで、2021年7月には、日本介護支援専門員協会宛てに、厚労省等から「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組み指針等(先の取組み指針を指します)を踏まえた業務継続に向けた取組み等のさらなる推進について」と題した事務連絡も出されました。
ケアプランの作成等にも影響を与える?
上記の事務連絡では、ケアマネの介護保険実務との関連も示されています。
たとえば、先の避難行動要支援者名簿について、利用者台帳等に反映させつつ保存することを求めています。そうなると、ケアプラン内(たとえば「総合的な援助の方針」内)に「避難行動要支援者」である旨を記すなど、地域のネットワーク間の話し合いによって対応方針を決めることも必要になりそうです。
また、個別避難計画にかかる取組み指針では、「ケアプラン作成等に合わせて行なうことが効果的」としています。具体的にどうすればいいのか分かりにくい点ですが、まずは取組み指針で示されている個別避難計画の様式例・記載例に着目してみましょう。
ケアマネからの情報提供(ネットワークを通じて情報共有や個別避難計画作成にかかる本人同意を得ることが必要)が反映される部分としては、(1)同居家族の有無、(2)緊急時の連絡先、(3)避難時に配慮しなくてはならない事項(選択式の他、特記事項あり)、(4)避難支援時の留意事項などが想定されます。
これらの情報を計画作成ネットワークに提供しつつ、完成した個別避難計画をケアプランと一緒に保存することになるでしょう。たとえば、本人の避難経路や避難先、その際の支援者(家族や町内会の人など)といった情報が入手できていれば、災害時に「その人が今どこにいるか」も把握しやすくなります。
このあたりの災害発生時の個別避難計画をどのように活用するかについて、2021年度改定で全サービスに義務づけられたBCP(業務継続計画)などに反映させることも必要です。
ケアマネだけに過剰な期待が集中しないか
ただし、ケアマネの立場からの課題も少なくありません。それは、地域の関係者からケアマネに対して、「利用者との信頼関係の構築」にかかる期待が過剰になるといったことです。
たとえば、利用者の中には、地域との関係構築を「煩わしい」と感じる人もいます。そうした人が、ケアマネだけには心を開いているというケースもよく聞きます(ケアマネの専門性が活きている部分とも言えます)。
そうした人に行政の担当者などが個別避難計画作成の同意を得ようとしても、なかなか納得してくれない──といった場面も想定されます。そうなると、「本人と信頼関係が築けているケアマネ」に対し、事あるごとに登場を願うということになりかねません。ケアマネとしては、「災害時の本人の安全確保のため」という目的意識はあるとしても、平時からの責務が過大になる可能性もあるわけです。
ちなみに、2021年度からは個別避難計画の作成にかかる経費が地方交付税から支給されることになりました。ケアマネ側のかかり増し経費などは、ここからねん出される期待はあるでしょう。とはいえ、ケアマネの具体的な役割について、現場の実情に基づいた整理をしっかり進めることが欠かせません。
このあたりも、管轄する自治体の力量に大きく左右される点です。日頃から自治体担当者と介護・福祉現場とのコミュニケーションがどこまで築けているかが問われそうです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。