「認知症の人と家族の一体的支援」スタート どのような効果が期待される? 課題は?

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4月1日から、地域支援事業実施要綱の一部が改定されます。具体的には、市町村が手がける認知症総合支援事業に、「(認知症地域支援推進員が手がける業務として)認知症の人と家族への一体的支援事業」が加わったことです。介護給付サービスとの関係も考察しつつ、事業の詳細について取り上げます。

2022年度予算で地域支援事業に位置づけ

この「認知症の人と家族への一体的支援事業(以下、一体的支援事業)」は、先に成立した2022年度予算に盛り込まれています。簡潔に言えば、「公共スペースや既存施設等を活用して、本人と家族が共に活動する時間と場所を設け、本人支援、家族支援および一体的支援からなる一連のプログラムを実施する」というしくみです。これを、認知症地域支援推進員が企画・調整することになります。

たとえば、現行でも多くの認知症カフェにおいて、「本人と家族が一緒に参加する」という光景は見られます。「これとどう違うのか」と思う人もいるかもしれません。

これはあくまで認知症カフェ等を活用した独自の事業であり、プログラムの普遍化を図ったものといえます。そのうえで、既存の認知症カフェ等の運営とは別に予算を投じたわけで、国の認知症施策の一つとして明確に位置づけたと考えていいでしょう。

本人と家族の関係性構築に向けた2部構成

国が示す「一体的支援」の事業概要をもとに、詳しく見てみましょう。まず、同プログラムは認知症の人と家族が一緒に参加することが前提となります。そのうえで、事例としては2部構成の手法が示されています。

第1部は「本人支援」と「家族支援」が別々に行われます。前者では、認知症の本人の希望にもとづく主体的なアクティビティを実施したり、本人同士が語り合う場を設けたりすること。後者では、家族同士が専門家等と語り合うことで、家族への心理的なサポートと情報提供などを行なうというものです。

こうした「別個の活動」を経たうえで、第2部に移ります。ここでは、認知症の本人と家族が一緒に活動する時間となります。すでに第1部で、本人には「主体的な行動」や「新たな役割の創出」が図られ、家族には「本人への介護負担の軽減」や「介護を肯定的に評価する視点」が図られていることが前提です。

この前提のもと、「一緒に活動する」ことで家族が本人の新たな可能性に気づいたり、本人と家族の間で新たな関係性を構築することが期待されます。これによって、両者の関係性が改善されれば、本人のBPSDの改善にもつながり、良循環の形成も図られるわけです。

一定指標にもとづく「効果測定」も実施

もちろん、良い循環を生み出すためには、1部から2部への流れにかかる適切なコーディネートが必要(これを認知症地域支援推進員や介護の専門職が手がけます)です。それとともに、継続的な開催(月1、2回を想定)や、当事者の満足度・関係性にかかる効果を評価しつつPDCAサイクルを機能させていくことも必要になるでしょう。

実際、要綱で示された留意事項では、「利用者の家族を通じた満足度調査」や「DBD13(認知症行動障害尺度)による効果測定」とともに、その結果を行政に報告することが示されています。このあたりは、国の認知症施策推進大綱における「予防(重度化防止)」の施策を反映したものといえるでしょう。

なお、こうした「一体的支援」については、2015年度に認知症カフェが本格的にスタートした当時から、「明確な狙い」をもって1部・2部構成で行なうなどの取組みが始まっていました。住民団体等による草の根の取組みが、ここへ来て「国の施策」として構築されたケースの一つと言っていいかもしれません。

給付サービスでも同様の取組みはできないか

一方で、この取組みを地域支援事業の枠組みだけにとどめる場合、その効果がどこまで上がるのかが不安視されます。「一体的支援」というエキスは、給付サービスとともに導入されてこそ継続的な効果が発揮されるものではないか──という考え方が浮かぶわけです。

たとえば、一部の通所介護などでは、別室で家族サロンを設けて家族同士の交流・情報交換の機会にあてるといった取組みが見られます。タイミングをみて、本人のアクティビティや機能訓練に立ち会う場面もあります。

給付外の取組みなのでコスト的には「持ち出し」となりますが(社会福祉法人が「家族会」の一環などで開催するケースもあり)、本人と家族の関係性が改善されることで、利用者の意欲向上につながる効果も期待されます。それに伴ってBPSDの改善なども進めば、現場従事者のケア負担の軽減にもつながります。

もちろん、家族としては通所系サービス等にレスパイト機能も期待するので、そうした意向も尊重する必要はあるでしょう。しかし、先の地域支援事業のように「コーディネーター」を配置し、「月1、2回の頻度」であれば、無理のないやり方ができるかもしれません。

認知症ケアは、制度や機会によって「枠」を設けず、地域資源全体を通じた「面」での継続性ある取組みが重要です。その点では、給付サービスでも同様の取組みを位置づけ、報酬上の評価を設定するという施策ビジョンも必要ではないでしょうか。

地域支援事業も給付サービスも、介護保険による財源が使われていることに変わりはありません。両者の間の継続性・関連性をきちんと設計してこそ、施策における費用対効果を上げることにつながるはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。