ケアマネ法定研修カリキュラムの見直し 「準備材料」の提示で見えてくること

イメージ画像厚労省がケアマネの法定研修カリキュラムの見直しを予定しています。果たしてどのような改定が行なわれるのか──そのヒントとなる資料が公表されました。「介護支援専門員の資質向上に資する研修等のあり方に関する調査研究事業」(実施:日本総合研究所。2021年度老人保健健康増進等事業)の報告書です。

報告書による見直し予測のポイントは3つ

この報告書について、厚労省は「正式なカリキュラム等として確定してものではない」としつつ、自治体に管轄内の居宅介護支援事業所等への周知を求めています。つまり、カリキュラム等の改正を見すえた準備材料と位置づけてはいるわけで、この報告書がおおむねの方向性を示していると言えます。

この点を頭に入れつつ、後進者がどのような実務研修を受けることになるか、更新研修(専門研修)や主任ケアマネ研修等がどうなっていくのかを見通しておきましょう。このことは、同時に運営指導(旧実地指導)やケアプラン点検等で「どんな点に重点が置かれるか」を把握することにもつながります。

全体を通して特に押さえたいのは、以下の3点です。1つは、疾患別のケアマネジメントに関する講義・演習が再編・拡充されていること。2つめは、他法・他制度の活用が必要なケアマネジメントのあり方がクローズアップされたこと。3つめは、ケアマネジメント実践における「倫理」について研修時間が増やされた(今回の報告書では、専門研修で倍の時間が設定されている)ことです。

疾患別で特に注目は心疾患と誤嚥性肺炎予防

まず、第1の「疾患別のケアマネジメント」について。ご存じの通り、疾患別のケアマネジメントについては、2016年度から続いた「適切なケアマネジメント手法」の策定作業において整理が行われ、2021年6月公表の「手引き」にも反映されています。

今回示された研修カリキュラム案は、こうした一連の改革に順じたものと言えます。具体的なポイントは、以下のようになります。

(1)従来からの「脳血管疾患」および「認知症」については、一部研修時間や修得目標・内容などを見直す案が示されたこと。

(2)「大腿骨頸部骨折」のある人、「心疾患」のある人、そして「誤嚥性肺炎の予防」を対象としたケアマネジメントを加えたこと。

(3)実務研修において、「高齢者に多い慢性疾患の留意点」の理解を加えたこと。

現場のケアマネにとって、ケースとして多い一方で対応に戸惑いがちなのが、「心疾患」のある人のケアマネジメントでしょう。また、「誤嚥性肺炎の予防」という、多様な要因が絡みやすいリスクの軽減に関しても、ケアマネの課題分析力が強く問われます。いずれも、ケアマネによってはウイークポイントとされがちな部分であり、今から意識的なスキルUPを図ることが必要になりそうです。

「他法他制度の活用」と「家族支援」の関係

2つめの「他法・他制度の活用が必要なケアマネジメント」について。国が力を入れる施策に沿ったテーマといえます。

この場合の他法・他制度とは、何を指すのでしょうか。今回の報告書を見ると、障害者総合支援法のほか、高齢者虐待防止法、生活困窮者自立支援法などが想定されているようです。さらに、難病がある利用者についてのケアマネジメントも取り上げられています。

注意したいのは、昨今、国は「仕事と介護の両立支援」や「ヤングケアラー支援」など、家族に焦点を当てた施策に力を入れていることです。現状では、総論となる「介護保険制度の理念・現状およびケアマネジメント」や「認知症」にかかる部分に包括されています。

しかし、介護保険法の中での「家族支援」があいまいな状況においては、研修での扱いが難しいテーマともいえます。その点で、正式なカリキュラムの立案に際しては、この「他法・他制度の活用」という部分にも組み込まれる可能性が高いと考えられます。

ケアマネジメントの公正中立にも力点が!?

3つめの「ケアマネジメント実践における『倫理』の強化」ですが、従来でも強調されているのは、利用者の権利擁護や尊厳保持、ケアマネによる守秘義務に関することでしょう。注意したいのは、今回のカリキュラム案で「拡充」が図られている背景です。

これはあくまで推察ですが、やはり「公正中立」というテーマへの比重が増していくことです。ケアマネジメントの公正中立は、介護保険制度の見直しの議論が進められるたびに、改革すべきテーマとして(厚労省のほか財務省などでも)強調されています。今年の介護保険部会の議論でも、「ケアマネジメントへの利用者負担導入」なども視野に入れつつ、主要な論点となることは間違いないでしょう。

こうして見ると、正式なカリキュラム改定に向けては、国が進めようとしている改革とリンクする部分に注意を払うことが必要です。最初の「疾患別ケアマネジメント」についても、すでに策定済みの「適切なケアマネジメント手法」だけでなく、対医療連携という観点から次(2024年度ダブル改定時)の診療報酬見直しの動きにも注目するべきでしょう。

いずれにしても、「ケアマネ志望者」が減少しつつある現在、大切なのは「ケアマネという専門職の社会的な価値」をきちんとカリキュラムに反映させことができるかという点です。正式なカリキュラム策定時には、このエキスをしっかり入れ込むことが求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。