サ高住等におけるケアプラン作成 調査研究から浮かび上がる問題の根深さ

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2021年度老人保健健康増進等事業の一環で、ケアマネにとって興味深い報告書が示されました。それが「サ高住等における適正なケアプラン作成に向けた調査研究(実施主体:日本総合研究所)」です(「サ高住等」には、住宅型有料老人ホームなども含みます)。今後、介護保険制度の見直しをめぐるさまざまな議論の場で取り上げられる可能性があります。

サ高住等における利用者の選択権の侵害

サ高住等の入居者に提供される介護保険サービスといえば、「住まい」と「サービス事業所」の一体運営などにおいて、「利用者のサービス選択権が脅かされるケース」や「利用者の意に沿わない過剰なサービス提供」などの問題事例がしばしば指摘されています。そうした状況を問題視する矛先は、ケアマネジメントにも向けられがちです。

もちろん、こうした課題への指摘は、厚労省の各種審議会でも指摘されていました。2021年度改定では、「サ高住等の入居者で、区分支給限度基準額の利用割合が高いケース」などを対象としたケアプラン点検を行なうことが定められています(2021年10月施行)。

こうした改定を受けて、冒頭のような課題は改善されたのでしょうか。今回の報告書では、実際にサ高住等に入居する利用者を担当するケアマネを対象としたアンケート等を実施し、直近の実態把握を行なっています。

利用者本位のケアマネジメント未実施が3割

このケアマネを対象としたアンケート、調査時期は2021年12月から2022年1月で、先の「サ高住等入居者のケアプラン点検」の施行後となります。施行から間もないので、改定の効果はまだ十分に反映されていないでしょうが、ケアマネ側の問題意識が高まっているタイミングとは言えそうです。

この点を頭に入れたうえで、まずは「利用者本位のケアマネジメントの実践状況」に着目します。それによれば、「あまり実践されていない(25.3%)」+「まったく実践されていない(7.4%)」で、両者を合わせると「実践されていない」が3割以上に達しています。

ちなみに、2020年度にも同様の項目による調査が行われましたが、その際には「あまり実践されていない(10.5%)」+「まったく実践されていない(1.3%)」で、両者を合わせて「実践されていない」は1割台です。となれば、1年前(2021年度改定前)よりも状況は悪くなったことになります。これは、問題意識が高まったことによるものでしょうか?

立場的には「中立」でも利用者本位にならず?

実は、2020年度と今回の2021年度では、調査手法が変わっています。前者は「各サ高住等を起点」としてアンケートを配布していました。それゆえに、「担当ケアマネによるサ高住等への潜在的な配慮」が働いたと見られます。今調査はこうしたバイアスを排除するため、(1)サ高住等の運営法人とは別法人に所属するケアマネを対象とし、(2)日本介護支援専門員協会や民間アンケート会社を経由してケアマネ個人に調査票を配布しました。

先の「実践されていない」が1割→3割に上昇したのは、上記のような調査法の変更でバイアスが緩和されたことが要因と考えられます。ただし、そうなると別の問題が浮かんできます。調査対象のケアマネが「サ高住等から中立的な立場」にあるにもかかわらず、3割が「利用者本位のケアマネジメントが実践されていない」となることです。

つまり、所属する組織上の立場では「中立的」であっても、利用者がそのサ高住等に入居している限り、「住まい側の事業所の意」に沿わざるを得ないケースが依然として存在するわけです。ケアマネとしては、サ高住側との円滑な関係を望むうえで「一定の忖度」が働いているという可能性があります。

2024年度改定でさらなる規制の強化に?

では、どんな点が問題となるのでしょうか。先のケアマネ調査(複数回答)で、利用者のいるサ高住等の状況について尋ねた項目によれば、もっとも多いのが「基本的には、住宅・ホームと同一法人が提供するサービスを優先し、ケアプランが作成されている」(45.2%)。次いで「事業者の都合により、同一住宅・ホーム内の利用者のケアプランが画一的なものになっている」(40.2%)、「事業者の都合により、区分支給限度基準額一杯まで、同一法人による介護保険サービスを設定したケアプランが多い」(37.2%)となっています。

こうして見ると、厚労省の審議会等で当初から指摘されていた課題が、改めて浮上しています。こうした結果を受け、今回の報告書では別添資料として「ケアマネ向け」「サ高住等の運営事業者向け」「利用者向け」の3つの冊子も公開。たとえば、「ケアマネ向け」では、「知らず知らずのうちに不適切なケアマネジメント事例を作り出していませんか?」と題し、具体的な不適切事例を紹介しています。

こうした素材により、サ高住等にかかるケアプラン点検や住まい側の事業者への指導なども活発化する可能性は高いでしょう。と同時に、2024年度改定でのさらなる基準強化や不適切事例にかかるペナルティなどが推し進められることも考えられます。

とはいえ、ケアマネ個人で不適切事例を完全になくすことには限界もあるでしょう。包括によるサポート強化などとともに、ケアマネ個人が自事業所や住まい側から「不利益」を被らないようにするための支援者保護のあり方なども議論されるべきでしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。