2024年度(第9期介護保険事業計画期間)の介護保険制度見直しに向け、社会保障審議会・介護保険部会が本格的に動き始めました。制度をめぐる課題が目白押しとなる中、これからどのような議論が展開されるのでしょうか。今後の議論を見聞きするうえで、注意しておきたいポイントをあげてみましょう。
介護・医療連携にデジタルデータ共有の流れ
2024年度の介護報酬・基準改定は、診療報酬とのダブル改定となります。当然、介護と医療の連携強化に向けた制度面での整合性が大きなポイントとなります。また、自治体目線では、第9期の介護保険事業計画と第8次の医療計画を同時に改定する必要があります。
いずれにしても、(2023年に想定される)法改正において、再び医療法や健康保険法などとの一括的な見直し作業が行われることになるでしょう。過去のダブル改定時の例を振り返るなら、診療報酬を議論する中央社会保険医療協議会と介護側の審議会(介護保険部会や介護給付費分科会)との間で、何らかの意見交換の場が設けられると思われます。
すでに今回の介護保険部会でも、医療・介護連携にかかる議論の「たたき台」も示されています。その中では、デジタル化による医療・介護連携の強化が重要であるとしています。たとえば、医療側のレセプトデータ(特定健診データ含む)と介護側のDBとなるLIFEとの連携などが視野に入ってきます。
2024年度にはLIFEのしくみも変わる?
ちなみに、今回の介護保険部会の提示資料内では、政府によるデータヘルスに関する改革工程表が示されています。中でも強調されているものの一つが、介護・医療間の情報共有を可能にするための標準化です。
つまり、医療との情報共有を円滑に行なうための新システムの開発や現行のシステムの課題解決が目指されているわけです。実際、工程表では上記のようなシステム基盤のあり方について、デジタル庁とともに、2024年度までに検討して結論を得るとしています。
介護側のLIFEについては、2024年度に関連加算に訪問系サービスが加わる公算が大きくなっています。仮にそうなれば、LIFEを活用した科学的介護がサービス全体を網羅する土台が完成することになります。
ここで医療側との間で相互のデジタル情報のやり取りが進めば、介護側が「収集すべき情報」「活用すべき情報」に、医療的要素が今まで以上に深く入ることになりそうです。
ケアマネも無関係にあらず。むしろ影響は大
この流れは、ケアマネも無関係ではありません。ケアマネジメントにおけるLIFE活用のモデル事業なども実施される中、2024年度の制度見直しでは、「ケアプラン作成・見直し」に際してのLIFE情報の反映などにかかる基準等が厳しくなることも考えられます。
ここで注意したいのは、適切なケアマネジメント手法の策定を通じ、法定研修のカリキュラム改定で「疾患別のケアマネジメント」が強化されるという流れです。たとえば、LIFEと医療DBの連動が進められた場合、疾患別ケアマネジメントを進めるうえで、「医療DBの活用」が制度内に組み込まれる可能性もあります。基準・報酬上での対医療連携の強化は今に始まったことではありませんが、そのしくみに「デジタル化」という大きな横軸が通されることになるわけです。
もちろん、「適切なケアマネジメント手法」については、昨年の介護給付費分科会の審議報告でも「疾患別のケアマネジメント手法に限られない」ことを強調してはいます。しかし、介護・医療連携の議論が深まる中では、介護保険部会の委員ともなっている保険者団体などから、「疾患別ケアマネジメント」に言及する機会は増えると考えるべきでしょう。
他にもケアマネめぐる改革テーマが目白押し
2024年度の制度見直しに向けては、すでに財務省や経済団体から「ケアマネジメントへの利用者負担の導入」や「福祉用具のみ等のケアプランにかかる報酬引下げ」といったインパクトの強い改革案が出されています。
また、今回の介護保険部会では「住まいと生活の一体的支援」が多きテーマとしてかかげられていますが、ここで「高齢者向け住まいにおけるケアマネジメントの公正中立性」も、付随する課題として大きく取り上げられることになるのは間違いありません。
厚労省の老人保健健康増進等事業で「サ高住等における適正なケアプラン作成」にかかる報告書も出されましたが、ここで示されたデータは、いずれ介護保険部会でも「ケアマネジメントの公正中立」というテーマに関連して取り上げられることになりそうです。
医療とのデジタル連携、利用者負担の導入、位置づけサービスによる報酬変動、高齢者向け住まいにおけるケアマネジメントの公正中立の確保──こうして見ると、2023年の法改正や2024年度の基準・報酬改定において、ケアマネジメントに焦点が当たる比重が、思いのほか高くなることが予想されます。
介護保険制度のみならず、さまざまな地域課題の発見・対応の要となっていたケアマネですが、これから年末にかけて改革の表舞台に立たされる場面が増えそうです。その時々の議論にただ振り回されることがないよう、今の業務の足腰を整えておきたいものです。
【関連リンク】
【介護保険部会】労働力の制約にどう対応? 次の制度改正、厚労省が論点を提示|ケアマネタイムスbyケアマネドットコム
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。