日本介護支援専門員協会が打ち出した 「セーフティネット」という言葉の重み

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介護保険制度見直しに向け、財務省などから厳しい提言が出されています。これに対し、日本介護支援専門員協会(以下、日本協会)が会長名で「財政制度等審議会・財政制度分科会の資料に対する見解」を公表しました。同見解から注目のポイントを取り上げます。

ケアマネジメントへの利用者負担導入に反論

今回の見解の中から、ここでは「ケアマネジメントへの利用者負担の導入」に焦点を当てます。財務省側の提言では、「他のサービスに利用者負担がある」こととの整合性を求めました。これに対して日本協会は、ケアマネジメントと介護サービスを「同列の支援とみなすことに無理がある」と反論しています。

その理由として、ケアマネジメントは「居宅の要介護者が居宅サービス等を適切に利用できる」ようにするためのものであり、サービスが「多様なサービス提供主体により総合的かつ効率的に提供される」ための「セーフティネット」であると位置づけています。

キーワードは、「セーフティネット」です。セーフティネットとは「国民が社会生活をおくるうえでの安全網」を指しますが、今見解でも、「すべての利用者が公平に過不足なく支援を受けられる環境を維持する」ための社会保障制度の理念の根幹と位置づけています。

ケアマネジメントの社会的価値を問うテーマ

これは、重要な論点です。なぜなら、それがなければ(介護保険等の)社会保障制度は機能せず、ひいては利用者の社会生活が機能しないという点に踏み込んでいるからです。

確かに介護保険法でも、居宅介護支援の位置づけとして、「適切なサービス利用」につなげるための機能が明記されています。しかし、それが国民生活に不可欠な「セーフティネット」なのかという位置づけについては、さまざまな立場から解釈に幅が生じるでしょう。

この解釈の幅を限定し、財務省などが「他サービスと同列に扱うこと」をけん制するには、社会保障制度の根幹という考え方をより明確にしていくという議論が求められます。

たとえば、他制度のしくみへのかかわりが増え続ける中、ケアマネおよびケアマネが実践するケアマネジメントは、「介護保険の枠だけにとらわれない社会的価値がある」という理念を法律で明らかにすることです。

思い切った言い方をすれば、ケアマネジメント業務を位置づけた法律を、介護保険法とは別に新設します。そこで、介護保険をはじめとする多様な社会保障制度を機能させるための「不可欠性(例.自己負担を発生させずに、利用者のアクセス権を完全に保障するなど)」をはっきりさせるわけです。

相談援助の無償化を明確にするための道筋

もちろん、各種サービスへのアクセス権を保障するには、ケアマネだけでなく相談支援員やケースワーカーなど、社会全体で相談援助業務を担うすべての職種を対象としなければなりません。そこで(ケアマネを含む)相談援助業務すべてを対象とした法律とします。

ケアマネ業務およびケアマネジメントを他の相談援助業務と一緒に取り扱うことについては異論も多いでしょうが、少なくとも、制度にかかわりなく「相談援助へのアクセス権の保障」を明確にすることができます。

ここで言う「相談援助へのアクセス権の保障」とは、要するに「相談援助は国民にとって無償である」ことを法律で明記することに他なりません。ここにケアマネ業務も含めれば、財務省などが主張する「自己負担」が入り込む余地はなくなります。

問題は財政上の位置づけをどうするか、そこで働く相談援助職(ケアマネなど)への報酬をどのように設定するか──でしょう。各相談援助のフィールドは制度ごとに異なるわけですから、財政上の拠出や財源を一律で定めることは困難です。しかし、国は社会保障全般に対して、地域共生社会における包括的支援を打ち出しているわけですから、困難であっても本来は避けられない議論のはずです。

現場も含めて、今向き合うべき課題とは?

こうした議論は、現場のケアマネや職能団体からすれば、「パンドラの箱になりかねない」として危惧する声もあるでしょう。ケアマネでいえば、「介護保険から切り離して別財源による事業化」が視野に入るからです。

そうなれば、その時々の財政状況に応じて(政令によって)上限額が設定される恐れもあります。新設された重層的支援体制整備事業などを見ると、分野ごとの交付金の按分割合が示されていますが、全体としては政令で定められます。財務省としても、かえって費用を調整しやすくなるかもしれません。

一方で、国民の生活課題が多様化・複合化する中、国はケアマネのかかわる範囲をなし崩しに近い状態で広げつつあります。本来であれば、増額すべき報酬(介護給付外の財源も含む)をセットで提示することが必要ですが、そうした議論はなかなか浮上しません。

こうした状況を見ると、いみじくも日本協会が打ち出した「セーフティネット」の考え方は、「そのための費用」などを幅広く議論する機会となるかもしれません。もちろん「ケアマネジメントの評価額」という難しいテーマを含みますが、現場においても向き合わなければならないタイミングといえそうです。

【関連リンク】
「実態を無視した暴論」 ケアマネ協会、財務省の介護費抑制策に猛反発|ケアマネタイムスbyケアマネドットコム

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。