軽度者だからこそ必要なサービス── 居宅療養管理指導等の意義を再確認

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次期介護保険制度の見直しに向けた財務省の財政制度等審議会(財政制度分科会)の提言で、「軽度者に対する居宅療養管理指導サービス等の給付の適正化」を求めています。このテーマは、先の日本介護支援専門員協会(以下、日本協会)の見解でもふれられています。焦点はどこにあるのかを掘り下げます。

財務省側の主張に押された場合の懸念とは

居宅療養管理指導については、先の改定で「継続的な指導等の必要ない者や通院が可能な者に対して安易に算定してはならない」と明示されました。たとえば、「少なくとも独歩で家族、介助者等の助けを借りずに通院ができる者など」は算定できないとしています。

もちろん、「やむを得ない事情がある場合を除く」ともされています。なので、日本協会が見解内で示している「比較的ADLが保持されていても過度の疲労を訴える末期がんの患者」などは、当然算定対象になると考えていいでしょう。問題は、「医師の求めに応じて導入するもの」であるため、主治医のみの判断ではバラつきが生じかねない点です。

その場合、財務省側の提言に押され算定基準をさらに詳細化する案が出る可能性もあります。医師側がそれに過剰反応すれば、本来は居宅療養管理指導が必要な人について、サービス導入の指示が自粛される懸念も生じます。その点を考えれば、むしろ「居宅療養指導に対するケアマネ側のマネジメント権限」を明確にすることが必要かもしれません。

「疾患別ケアマネジメント」を進めるのなら

それでは、ケアマネ側へのプレッシャーが強まるのではないか──と考える人もいるでしょう。現行で居宅療養管理指導は「医師の求め」に応じて導入するものですが、ここにケアマネの権限が加われば、財務省側の矛先がケアマネに向かいやすくなるからです。

しかし、厚労省は適切なケアマネジメント手法の中で、「疾患別のケアマネジメント」のあり方を明確にしようとしています。次の法定研修カリキュラムの見直しでも、重点的な見直し対象となることは、老健事業によるカリキュラム案を見ても明らかです。

その流れに沿うとすれば、居宅療養管理指導のあり方についても、主治医とケアマネ(もちろん、利用者と多職種含む)の間での合意形成が前提となるのは当然でしょう

この点があいまいでは、ケアマネジメント上で居宅療養管理指導を位置づけることの土台が揺らぎ、利用者の療養ニーズをめぐるチーム方針も定まらなくなります。国が強化しようとしている「疾患別のケアマネジメント」も絵に描いた餅となりかねないわけです。

居宅療養管理指導の通院では果たせない役割

ご存じのとおり、2020年度の介護給付費実態統計では、サービス全般で受給動向が鈍る中、居宅療養管理指導や訪問看護などの療養系サービスの伸びが目立っています。背景には、「コロナ禍」という特殊な事情(通院・通所控えへの代替えなど)もあるでしょうが、中長期的なトレンドでもニーズが高まっていることはデータ上でも明らかです。

今回、財務省側が問題にしているのは、そうした受給者増の中で軽度者ほど伸び率が大きいという点です。そうした軽度者の中には「自ら通院できる」というケースも多いのではないか──と指摘しているわけです。

この反論として日本協会側があげているのが、先に述べた「ADLが保持されていても、過度の疲労を訴える末期がん患者」といったケースです。言い換えれば、居宅療養管理指導等を利用するからには、それなりの個別事情があり、その実態をきちんとくみ上げることが必要と訴えていることになります。

こうした訴えは理にかなっていますが、一方で「介護給付(あるいは予防給付)としての居宅療養管理指導等(訪問看護も含む)」に通院とは異なる意義・役割があるという点にもっと踏み込むべきではないでしょうか。

軽度からの適切な活用が重度化を防ぐことも

介護保険の利用者は、日常生活の継続性という中で「重度化防止」を目指しています。つまり、日々の生活の中で、持病の悪化を防ぐために「どんな点に留意すればよいか」という意識づけの機会が必要であり、その点を生活に密着した環境の中でサポートしていくのが居宅療養管理指導と位置づけられます。

通院の場合、「その人の状態」だけを診て、あとは薬を処方する(つまり、生活との関連性を見ていない)──といった医師もまだまだ多いのが現状です。そうした中では、本人の「重度化防止」に向けた主体的な意思に訴えることは困難です。特に軽度者の場合、「処方された薬を飲んでいればよい」といった意識にとどまってしまうこともあるでしょう。

その点で、「悪化する前に自己による生活コントロールを図る」という主体性に合致できるのが居宅療養管理指導──といった位置づけを図ることができます。こうした資源は、軽度の時点からしっかり投入することが、その本来の役割を発揮することになります。

もちろん、すべての居宅療養管理指導の事業者が、そこまで見据えているわけではないでしょう。しかし、重度化防止の効果を発揮することで医療費等の膨張を防いでいる状況が確認できれば、重要な予防資源として再評価されることは間違いありません。

実態調査なども、こうした資源の原点の掘り下げが必要です。結果として「介護保険とは何か(医療とは何が違うのか)」が明らかになれば、安易な介護給付の削減が財政悪化をもたらすという流れも明確になるはずです。

【関連リンク】
「実態を無視した暴論」 ケアマネ協会、財務省の介護費抑制策に猛反発|ケアマネタイムスbyケアマネドットコム

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。