内閣府が、60歳以上を対象とした「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」(調査時期2021年12月)の結果を公表しました。同データは、対象者を65歳以上に絞ったうえで、一部を2022年度の高齢者社会白書でも取り上げています。2014年調査とも比較しつつ、高齢者支援にたずさわる職種が受け止めたいポイントを整理します。
内閣府調査を見るうえで考慮したい環境要因
まず今調査を見るうえで注意したいのは、調査時期がコロナ禍の第6・7波の狭間で実施されたことです。感染状況が落ち着いている時期とはいえ、それ以前の1年半ほどにわたる感染拡大で高齢者の社会活動等が自粛・制限される中、「人づきあい」にかかる現状や意識も大きく変わっている可能性があります。
加えて、過去8年間(2014年時と今調査時の間隔)で、高齢者世帯のうちの単独・夫婦のみの世帯は増え続けています。国民生活基礎調査の2013年と2019年の6年の間でも、割合は4.4ポイント上昇しています。過去8年ですから、それ以上に単独・夫婦のみ世帯が増えていることを考慮する必要があります。
これらを頭に入れたうえで、2014年調査との比較で目立つ変化に注目します。
友人・仲間、自身の役割の存在が低下傾向に
まず「ふだん親しくしている友人・仲間の有無」ですが、「たくさん持っていると感じる+普通に持っていると感じる」の合計割合は、2014年⇒2022年で10ポイント以上低下しています。先に述べたコロナ禍での要因もさることながら、単独・夫婦のみの世帯の増加も関連している可能性があります。
実際、世帯状況別での傾向を見ると、ひとり暮らしと三世帯同居の間で、上記の「普通に持っていると感じる」の割合は、前者の方が16ポイント以上低くなっています。同居家族を媒介として「友人・仲間が形成される」というケースも多いことを考えれば、この意識差も説明できるでしょう。
もう1つ注目したいのが、「家族や親族内での役割」です。さまざまな項目が示されている中、2014年⇒2022年の変化で著しいのが、「特に役割はない」という割合が倍近くになっていることです。単身・夫婦のみの世帯が増えているのだから当然──と思われるかもしれません。逆に言えば、世帯状況の変化とともに「役割の喪失」傾向も高まっているという点を意識することが必要です。
高齢者の社会参加に必要な「後押し」
以上を頭に入れたうえで、「高齢者の社会参加」に向けた課題を掘り下げます。ポイントは、高齢者が何らかの社会参加への意欲を持つ場合、そこには上記の調査項目と関連した「後押し」があることです。
「後押し」の1つは、もともと個人が持っているネットワーク。つまり、友人・仲間の存在です。多様な地域活動に「参加する」場合、そこでは近しい友人・仲間からの「誘い」がきっかけになっているケースは多いでしょう。
人は高齢期になると、新たな環境に踏み出すだけのエネルギーが不足しがちです。新たな環境に向けては、何かしら「現状との接点」が必要となり、それが「近しい友人・仲間」ということになります。
逆に言えば、先の調査結果にあるように「友人・仲間の存在」が減少傾向にある中では、社会参加のハードルは高くなります。その場合、本人の社会参加を進めることを目指すうえでは、身近な関係性の構築を視野に入れなければなりません。たとえば、いくら「通いの場」などを設けても、一人ひとりの関係性の構築に力を入れる施策がなければ、「通う」習慣を築くことは難しいわけです。
その点を考えたとき、本人の昔ながらの関係性のヒントとなるエコマップを作成したり、支援者が訪問してフェイスブックの活用を支援して、関係性の糸口をていねいに紡いでいくという仕掛けなどが必要になるでしょう。
日常からの「役割」づくりのマネジメントも
もう1つの「後押し」は、日常の中での役割の有無です。社会参加というのは、「そこでの自身の身の置き方」を想像できるかが意欲の高低につながります。要するに、日常の中で「している・保持している役割」の延長が、「社会参加に際して自分できること」への想像力が培われ、それが意欲へとつながっていく──そうした考え方が求められるわけです。
この点でも、先の調査結果から「社会参加へのハードル」は高まっていることになります。地域の支援者としては、割合の上がっている「特に役割はない」とする人に対し、その人らしさの象徴となる「日常的な役割」をいかに創出していくかが問われます。
以上の点から言えることは、高齢者に対して社会参加を促していくうえで、「地域内での場づくり」や「広報等による周知」、「ポイント制などによるインセンティブ」だけでは十分な効果はできない可能性があることです。
たとえば、元気なうちからの社会参加を進めるうえでも、ケアマネジメントに準じるような「社会参加マネジメント」のあり方が求められてくるでしょう。その中で、先に述べた「後押し」環境をていねいに作っていくこと──これが高齢者の社会参加意欲を底上げしていくのに不可欠な条件となるはずです。
そうした社会参加マネジメントを担う人材の育成や機関の整備、適切な報酬などを議論することが、入口として求められます。高齢者の社会参加促進に向けても、まずは「人づくり」が重要である点を考慮したいものです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。