地域包括ケアシステム推進のカギと位置づけられるサービスの1つが、定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下、定期巡回型)です。サービスの稼働は2012年度から。今年で10年目を迎えました。しかし、2020年10月1日時点で事業所数は1,099件にとどまります(介護サービス施設・事業所調査より)。
定期巡回型誕生から10年。その現状は?
上記の2020年10月1日時点の調査では、訪問介護事業所が3万5,075件、訪問看護ステーションが1万2,393件。前者との対比で30分の1、後者との対比でも10分の1以下となります。定期巡回型が後発サービスとはいえ、10年たってもなお、同じ訪問系でこれだけ資源数に差があることは見過せません。
また都道府県別のデータ(2019年4月時点)で見ると、高齢者人口10万人あたりの請求事業所数は、最も多いのが北海道の6.2に対し、最も少ないのは徳島県と沖縄県の0.4。こちらは15倍の差があります。同じ地域密着型で定額型の基本報酬である小規模多機能型も、都道府県によって整備状況に差はありますが、ここまでの差には至っていません。
昨今、ヘルパー不足で「地域によって訪問介護を受けにくくなった」という状況を聞くことがあります。しかし、定期巡回型の資源量の差は、それをはるかにしのぐ状況です。給付サービスにもかかわらず、全国一律での利用機会がこれだけ揺らいでいるのは、制度そのものの信頼にもかかわりかねません。
在宅看取りが急増する時代に国が目指すもの
確かに、現状では(ヘルパー不足等はあるものの)訪問介護や訪問看護があります。それによって、当面のニーズは満たされているという見方もあるかもしれません。
しかし、団塊世代が全員75歳以上となる2025年以降を見すえた場合、今と比較して年間の死亡者数も+10万人以上になると推計されています。医療機関での在院日数が減少し続ける中、当然、在宅での「看取り」の比率も高くなるのは間違いありません。看取り期の頻回訪問などにどう対応するかという中で、国としては、定期巡回型を1つの軸としていく可能性は高いといえます。
そうした中で、たとえば次の介護報酬・基準改定において、定期巡回型へのテコ入れが進むと考えられます。定期巡回型が普及しない背景として「ケアマネ側の認知不足」も指摘されていますが、そうした点についても何らかの手だてが図られるかもしれません。
その場合、注意しなければならないのは、単に「事業所数を増やす」、「地域間の資源格差を是正する」という観点だけで改革が進んだ場合の現場へのさまざまな影響です。
定期巡回型の高給付。今以上に伸びると…
たとえば、定期巡回型にかかる利用者1人あたりの給付費を見てみましょう。介護保険部会の資料からのデータですが、定期巡回型の1人あたり給付費は、月あたり15万8100円。訪問系サービスではトップで、訪問介護の約2倍、訪問看護の3.5倍以上。通所介護と比較しても約1.7倍となっています。
「定額の中で、随時対応を含めた頻回訪問に対応するのだから、1人あたり給付費もこれくらい上がってしかるべき」という見方もあるでしょう。問題は、先に述べたように「看取りニーズなどの高まりによって随時対応の機会が増える見込みとなり、それによってさらに給付費が増大する」というケースです。
限られた財源の中での優先順位がつけられるとすれば、他サービス、特に訪問介護等の報酬を圧力につながることも想定されます。当然、財務省などが主張する「要介護1・2の訪問介護等の総合事業への移行」の議論などを後押しする力になるかもしれません。
また、区分支給限度基準額の引き上げがなければ、定期巡回型の報酬引き上げが行われた場合、通所系サービスの利用調整が難しくなるケースも増えるでしょう。ケアマネとしても、調整が難しくなることが考えられます。
「サービスありき」に陥らないための鍛錬を
いずれにしても、これから先国が介護保険施策の中で定期巡回型をどう位置づけるのかという流れは、ケアマネジメントにも大きな影響を与えることは間違いありません。
ちなみに、2020年度の厚労省の老人保健健康増進等事業として「定期巡回型の普及促進に関する調査研究」が公表されています。そこでは、主にケアマネへのアンケートを通じて、普及促進にかかる課題を分析しています。
ショッキングなのが、定期巡回型について「サービス名自体を知らない」+「どのようなサービスかはあまり知らない」が25%以上にのぼることです。また、「サービスのことを具体的に知っていて、実際に利用者を担当した」というケアマネ(35.5%)でも、「ケアマネから利用を勧めたケース」が「まったくない+ほとんどない」が5割に達しています。
こうしたデータが出てくると、介護保険部会等でも「ケアマネへの啓発策」が打ち出される可能性もあります。懸念されるのは、「サービスありき」のケアマネジメントにつながるような議論も浮上しかねないことです。
ケアマネにとって、サービスについて熟知するのは当然としても、大切なのは「利用者のニーズありき」の視点を忘れないことでしょう。看取り期の頻回訪問などのニーズは高まるとしても、そこでどのような支援が必要なのかについて、「ニーズありき」のフラットな視点を養っていくこと。これがますます求められる時代といえそうです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。