2022年、介護事業の倒産が最多の可能性。 膨大な「予備軍」撤退は2023年がピーク⁉

介護 お金 イメージ2022年に、介護事業者の倒産が過去最多となる可能性が浮上しています。東京商工リサーチが、2022年上半期の「老人福祉・介護事業」の倒産件数を示したデータからの予測です。再びのコロナ禍や物価上昇を被る中、介護業界の水面下で何が起こっているのでしょうか。次期改定のあり方を絡めながら考察します。

小規模な訪問介護はすでに「撤退済み」か?

介護事業所・施設の全体数と比べれば、データに現れている倒産件数はごくわずかです。とはいえ、現れている数字が「氷山の一角」とすれば、水面下には「倒産予備軍」が膨大な数にのぼっていると想定されます。

この点を頭に入れたとき、倒産総数の推移だけに着目するのではなく、その内訳に注目しながら、水面下の傾向をつかんでいくことが重要です。たとえば、上半期(1~6月)のみの年次推移を見ると、以下の3つの傾向を読み取ることができます。

1つめは、訪問介護の倒産件数は2018年度改定後に大きく上昇し、やや落ち着いたものの高止まりの傾向を見せていることです。

これは、ヘルパーの4人に1人が65歳以上という中で、「高齢により働き続けることが困難」という人手不足倒産につながる中長期的な背景があります。ここに2018年度改定での生活援助の報酬減や頻回の生活援助の規制が厳しくなったことや、サービス提供責任者の任用要件や実務の増大などが加わり、特に小規模事業所が従事者確保も含めて運営の継続が困難になったことが推測されます。

そのピークが、2020年。その後の1事業所あたりの売上を見ると、2021年からの報酬アップ分を差し引いても急上昇が見られます(介護給付費実態統計より)。つまり、2019~2020年の時点で、小規模事業所は一気に撤退してしまった可能性があるわけです。その後に高止まりした倒産件数には、小規模以外の事業所割合が高まっていると考えられます。

通所・短期入所の撤退トレンドはより中長期

2つめは、通所・短期入所事業の倒産件数についてです。2021年は、コロナ禍での報酬上の特例等により倒産件数はやや低下しましたが、それはあくまで一時的な状況に過ぎません。中長期的に見れば、2015年度のマイナス改定時から倒産件数の上昇・高止まりのトレンドが継続している様子がうかがえます。

3つめは、2021年には「0件」だった有料老人ホームの倒産件数が一気に「9件」まで上昇したことです。過去データを確認できる2007年以降では最多となります。

東京商工リサーチの分析では、「投資負担が重く、競争激化による利用者減」を要因としています。確かに、近年の有料老人ホームなどの高齢者向け住まいの増加ペースは著しく、地域によって受給者数の頭打ちも見られる中で、過当競争となっている感が認められます。

もともとの投資負担が重荷になっている中で、コロナ禍でのかかり増し経費の増大や内覧会等が十分に行なえないといった状況は、有料老人ホーム業界にとって強い逆風であることは間違いありません。今年後半からもっとも注意すべき分野と言えるでしょう。

これからは大規模事業所の倒産も急増か?

ここまでの流れをまとめてみると、以下のような状況が受かんできます。

まず、居宅系サービスの厳しい状況は今に始まったことではなく、訪問介護は2018年度改定以降、通所・短期入所は2015年度改定からという中長期的なトレンドの中にあるといえます。2021年はコロナ禍でのさまざまな財政支援策によって「水面上の氷山」が目立たなかっただけで、水面下の深刻さはずっと続いていることは明らかです。

そのうえで注意したいのは、負債総額や1事業所あたりの売上の推移を見ると、小規模事業所は(訪問介護をはじめ)すでに淘汰が進んでしまっていることです。今年から来年にかけては、一定規模以上の事業所の倒産・撤退が一気に表面化する可能性があります。

規模の大きな事業所がひとたび閉鎖となれば、地域の介護資源に与える瞬間的なインパクトは大きくなります。それまでの利用者の受入れ先を探すという点で、ケアマネが奔走しなければならない頻度が短期間で一気に高まりかねません。これは、居宅介護支援事業所の足腰にも影響してきます。

「撤退予備軍」が注視する次期改定の流れ

最初に述べたように、データに現れている倒産件数そのものの数字はわずかです。しかし、その水面下では「倒産・撤退の予備軍」が急増し、今後の経営環境の動向をうかがっていると考えていいでしょう。

そうした中、今年から来年にかけて2024年度改定の議論が本格化してきます。先の「予備軍」は、この動向を注視しているわけで、たとえば政府が少しでもマイナス改定を示唆する方法に動いた場合、一気に事業整理に動き出すことが考えられます。利用者の移行先を探すといった動きが先行するとなれば、来年の半ば過ぎからの動きが急となりそうです。

介護事業は、社会的な責任が大きく、それゆえに「安易な撤退は許されない」とよく言われます。しかし、それは何より経営基盤が中長期的に大きく変動しないことが前提です。少なくとも、次期改定の議論は「予備軍に注目されている」という点を十分に意識しながら進めることが不可欠です。国が発するメッセージの責任が大きく問われてきます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。