相対的な「仕事の満足度」は高いケアマネ。 課題となるのは、「孤独」になりがちな環境

イメージ画像公益財団法人・介護労働安定センターが、2021年度の介護労働実態調査の結果を公表しました。訪問介護員や介護職員等の就業実態・意欲について、さまざまなデータが上がっています。ここでは、これらデータの中から「ケアマネ」にスポットを当てます。

ケアマネ不足はやはり年々進行している⁉

居宅介護支援にかかる実態というと、気になることの1つに、かねてから指摘されている「ケアマネ不足」があげられます。2018年に実務研修受講試験の受験資格のハードルが上がり、その直後(2019年)から「1事業所あたりのケアマネ人数」が一気に減少したことは、記憶に新しいと思います。

介護労働実態調査における介護従事者の「不足状況(大いに不足+不足+やや不足)」については、今調査の全体で63.0%(訪問介護員80.6%、介護職員64.4%)、ケアマネに限れば32.9%なので、「全体として見れば大きな数字ではない」と思われがちです。

しかし、「ケアマネ不足」に限定して、ここ数年の推移を見ると、2017年度が27.3%⇒2019年度が30.4%⇒今回が32.9%と、ほぼ右肩上がりの状況にあります。特に今回調査では、「大いに不足」が初めて4%台に、「不足」が初めて10%台にのぼっていて、数字以上に深刻化している様子も浮かびます。

「賃金」は不満、でも「働き方」は満足

もっとも、従事者の「定着率」を見ると、「定着率が低くて困っている」は、居宅介護支援は5.6%で全サービス中もっとも低くなっています。ちなみに、全サービス平均では16.1%。入所型施設はもっとも高く25.6%で、居宅介護支援の4.5倍以上にのぼります。

これを裏づけているとも受け止められるののが、「現在の仕事の満足度」です。職種別(訪問介護員、サービス提供責任者、介護職員、ケアマネ)に12項目の内容で尋ねていますが、全体での満足度を示す「職業生活全体」では、ケアマネの満足度D.I.(※)が23.1で、訪問介護員19.4、サ責16.1、介護職員7.8と比較してもっとも高くなっています。
※満足度D.I. …(「満足」+「やや満足」)-(「やや不満足」+「不満足」)で算出

一方で、12項目のうち「賃金」だけを見ると、満足度D.I.は「-5.7」で、訪問介護員やサ責を下回っています。それ以外では、おおむね他職種を上回っていて、特に「労働時間・休日当の労働条件」、「勤務体制」などの高さが際立っています。「賃金」的には満足度は低くものの、「働き方」の満足度がそれを補っているというところでしょうか。

なお、労働者調査で「(ポジティブな)職場の特徴」を尋ねた項目もあります。それによれば、居宅介護支援で目立つのが以下の内容です。1つは、「従業員の個人的な生活時間の確保に配慮する雰囲気がある」(51.5%─全体では42.7%)、もう1つは「残業や休日出勤が少ない」(41.4%─全体では36.1%)です。

仕事上で相談できる窓口が「ない」の多さ

こうして見ると、ケアマネにとって「賃金」面はまだまだ不満が大きいものの、他の職種よりも「働き方の自由度」が比較的高く、それが「満足度⇒定着度の高さ」に結びついているという仮説が浮かびます。

もちろん、事業所によって差はあるでしょう。また、収支差率がなおも低い居宅介護支援では、「賃金アップ」が困難な状況下でケアマネ不足に対応していくうえで、「働き方の自由度やプライベートな時間の確保」を重視せざるを得ない事情も考慮する必要があります。

そうしたさまざまな状況も頭に入れつつ、今回の調査からも浮かんでいる「もう1つの課題」に着目します。それは、職務上などで何か悩みがあった時に「相談できる担当者や相談窓口があるか」という点です。

サービス類型別に見ると、「ない」という回答が居宅介護支援で42.0%。これは、すべてのサービス中でトップです。「相談したくても、その受け皿がない」という事業所が半分近くにのぼっていることになります。

現場のケアマネ相談に地域で対応する体制も

もっとも他サービスでは「わからない」という回答が多いため、一概に居宅介護支援の方が従事者相談の体制が整っていないとは言いきれません。居宅介護支援は組織的に規模の小さい事業所も多いので、「相談体制の有無」が分かりやすいという環境もあるでしょう。

とはいえ、ケアマネという職種は、利用者から多彩な相談を受けるケースが多く、その頻度やケアマネ一人あたりへの集中度も高くなりがちです。そうした中で、「相談体制の不備」が目立つというのは、「働き方の改善」だけではカバーしきれない課題といえます。

そうなると、「やはり大規模化に向けた施策が必要では」という結論になりがちです。しかし、経営母体そのものを拙速に集約することは、公正中立や利用者の選択権という観点から新たな問題を生じさせる懸念もあります。

それよりも、事業所間連携のしくみを整え、たとえば「ケアマネが事業所内で相談しにくいことに対応する窓口」などを協働で設けるといったやり方の方が、解決の糸口となるのではないでしょうか。ケアマネジメントに付きまといがちな「ケアマネの孤独」という課題に、何らかの光を当てたいものです。

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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。