厚労省から、2021年の人口動態統計の確定数が公表されました。出生数が過去最少となる一方で、死亡数は戦後最多に。ここでは「死亡数」における「死因順位」に着目します。介護現場としては、看取り対応のさらなる拡大とともに、増加する「死因」から専門職として求められるスキルを取り上げます。
老衰による死亡数の伸びが2万人台に迫る
2020年の同統計では、死亡数は前年から11年ぶりに減少しましたが、2021年は一転して約6万7000人の増加となりました。伸び率にすると約4.9%となります。前年の減少からの反動と言っていいほどの伸び率です。
では、それだけ死亡数を伸ばした主な死因は何でしょうか。もっとも多い死因は悪性新生物(がん)ですが、伸びが目立つのは老衰の約1万9000人増です。がんが約3000人増ですから、その高さがうかがえます。
老衰による死亡数の伸びは、2019年、2020年と1万人台に乗りましたが、今回は一気に2万人台をうかがう数字となったわけです。この2021年の急速な伸びは、「人口の高齢化」というだけでは説明が難しいでしょう。
そもそも「老衰」の定義ですが、厚労省の死亡診断記入マニュアルでは「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いる」とされています。要するに全身の機能について、特別な疾患ではなく、あくまで「老化」によって衰弱して死亡に至ったケースということになります。
疾患にかかわらず看取り期を見すえる必要が
この点から、コロナ禍によって生活行動がさまざまな制限を受け、同時に機能向上や療養環境の整備を担う介護サービスの利用控え・休止などが重なることにより、高齢者の全身の機能低下が進んだという1つの推論も浮かびます。日々の生活をきちんと整えることと、老化を防ぐことの関連性が、今回の老衰死の増加でもうかがえると言えます。
となれば、本人の疾患の有無にかかわらず。その人の生活状況に寄り添いつつ、「人生の最終段階におけるさまざまな意思決定」のあり方を常に考えることがますます重要です。末期がんなど「特別な疾患」だけを基準に「人生の最終段階」について考えるのでは、支援専門職としての役割は果たせません。
大切なのは、疾患のステージだけでなく、その人の「生活のステージ」がどうなっているか(何らかの外的要因によって、生活状況に変化が生じていないか)をきちんと見極めることです。その点では、その人の生活に寄り添い続けることのできる介護専門職は、尊厳ある人生の全うに向けて、医療と同等以上に評価されなければなりません。
たとえば、これからの介護報酬のあり方を考えるうえでも、「老衰」という死因の動向をしっかり関連づけることが必要でしょう。
「心疾患」と「誤嚥性肺炎」も死因の上位に
さて、死因数に着目した時、「老衰」以外で伸びのの目立つものが2つあります。1つは、死因数で2位となっている「心疾患」。もう1つは、一般的な「肺炎」が減少しているのと対象的に、増加が目立つ「誤嚥性肺炎」です。
今統計では、前者の「心疾患」は約9100人増、後者の「誤嚥性肺炎」は約6700人増です。前者は「がん」の伸びの約3倍、後者でも約2倍という数字になっています。
この2つの死因に着目した時、ケアマネの多くが頭に浮かべるのは、間もなく改定が予定される法定カリキュラムでしょう。
今年3月に公表された調査研究では、確定ではないものの、カリキュラムの一部について改定案が示されています。その中で、新たな科目案として新設されているのが、「心疾患がある人のケアマネジメント」と「誤嚥性肺炎の予防のケアマネジメント」です。
もう1つ注意したいのは、この新カリキュラム案と連動する形で進められている「適正なケアマネジメント手法」です。この「疾患別ケア」の中に、「心疾患のある人のケア」と「誤嚥性肺炎の予防のケア」が含まれます。
さらに言えば、「基本ケア」の中に「意思決定支援体制の整備」がありますが、これは先の「老衰」の部分で述べた「人生の最終段階における意思決定」に関連する内容です。つまり、利用者の疾患にかかわらず、意思決定支援を基本と位置づけているわけです。
経験に左右されがちなスキルをどう高める?
ケアマネにしてみれば、これら3つのポイントにかかるスキルは、特に経験値に左右されがちです。「適切なケアマネジメント手法の手引き」によれば、たとえば「心疾患がある人のケア」は、繰り返し発症しやすい特徴から、他の疾患以上に普段からの対医療連携が重要になります。また、再発リスクの観点から生活上の制限・制約が強くなりがちな中でも、参加と活動の場面を維持するというバランス─高度な見立てが必要になります。
このあたりは、特に新任ケアマネのスキルアップが難しいテーマかもしれません。居宅介護支援事業所としても、自事業所のケアマネ全体のスキルの底上げを図るうえで、意識的に焦点を当てることが求められます。
今回の統計を見ても分かる通り、「適切なケアマネジメント手法」にどう対応するかという以前に、看取りに向けた環境は大きく変化しつつあります。地域のケアマネ連絡会などでも、上記3つのテーマについて、意識的に習熟する機会を持ちたいものです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。