「給付と負担」の改革案は目白押しだが… 実現されるのは、意外にもごく一部!?

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社会保障審議会・介護保険部会が、「給付と負担の関係」を議論する段階に入ってきました。9月26日の部会では、さまざまな論点ごとに、過去の同部会や財務省の審議会、各種閣議決定などでの指摘事項が示されています。押さえたいポイントをあげてみましょう。

介護保険部会で示された7つの各論を整理

「給付と負担の関係」での各論テーマは7つ。(1)被保険者・受給権者の範囲、(2)補足給付のあり方、(3)(老健等の)多床室の室料負担、(4)ケアマネジメントに関する給付のあり方、(5)軽度者への生活援助サービス等のあり方、(6)現役並み・一定以上所得の判断基準、(7)福祉用具貸与のあり方、となっています。

(1)については、被保険者範囲の40歳未満への拡大や、第1号被保険者の年齢層を引き上げるという案が。(2)は、補足給付の支給にあたって預貯金だけでなく所有不動産を勘案するという案が出ています。(3)は、老健や介護医療院の多床室について、現行で給付に含まれる室料の負担を求めるというものです。

(4)、(5)は、特に居宅ケアマネには関心の高い部分でしょう。(4)は、言うまでもなくケアマネジメントに利用者負担を導入するという案。(5)は、要介護1・2の生活援助等を保険者が実施する介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)に移すという案が出ています。

(6)は、具体的には「2割負担の対象範囲」の拡大が主テーマです。財務省側の案では、さらに一歩進めて「原則2割負担とする」という案も出ています。これも利用者のサービス利用動向への影響が気になる案でしょう。

(7)は、要介護度に関係なく給付対象となっている廉価な品目(歩行補助杖、歩行器、手すりなど)について、貸与ではなく販売とする案です。なお、財務省側からは「福祉用具のみのケアプランについて、(居宅介護支援の)報酬の減算を行なう」という案も出ています。

ポイントは「現役世代の負担抑制」との関係

これらの案に絡み、現時点で見すえたいのは、現政権が推し進める「全世代型社会保障の構築」です。ポイントは、現役世代の負担上昇の抑制を図りつつ、全世代を通じ能力に応じた負担のあり方を検討する点にあります。今回の制度見直しの議論では、このポイントが横軸となっていることに注意しましょう。

たとえば、「現役世代の負担上昇の抑制」を考えた時、(1)の「被保険者範囲の40歳未満への拡大」は路線から外れる可能性は高いでしょう。「第1号保険者の年齢層引上げ」も、それによって「今の2号保険者の負担減につながる」という道筋が見えない限りは、やはり見送りになる可能性は高いといえます。

一方で、(2)、(3)については、ともに「補足給付の抑制」という観点で「現役世代の負担上昇の抑制」の流れには沿っています。

ただし、(1)は地価の地域差や各種事務コストの増大などとともに、リバースモゲージ等と絡めた場合に「現役等の次世代」に資産を引き継げないといった課題もあります。(3)は、医療療養病床から介護医療院への移行にブレーキをかけるという点が指摘されていて、医療保険財政との兼ね合いという点で調整が難しいテーマとなる可能性があります。

これらの点から、やや政治的な問題も絡みつつ見送りとなる公算は高いかもしれません。

「2割負担の拡大」はやはり実現可能性大?

そうなってくると、内閣府や財務省の実現への意向が集中するのは、④、⑥ということになります。中でも、⑥は「後期高齢者医療にかかる一定以上所得者の窓口負担を2割とする」という10月からの施策が既定路線となっていて、所得基準などもそれに合わせて見直すという流れは強まっています。

もちろん、現状の物価高などで高齢者の家計状況が厳しくなっている中、介護保険部会でも議論が紛糾するのは確実です。とはいえ、①~③が見送りとなる可能性があれば、「現役世代の負担減」をかかげる政府として譲れない一線なのも間違いないでしょう。

たとえば、低所得者へのさらなる給付金や後期高齢者医療にかかる配慮措置の還付のような施策とのセットという形で、政府側は押し切りたいと考えるかもしれません。

これに対し、④の「ケアマネジメントへの利用者負担」は、介護保険制度だけでなく、相談援助という社会保障制度の根幹を大きく変えかねない見直し案といえます。その点で、財務省などの強い実現への意向とはうらはらに、介護保険部会の議論が進むつれて実現ハードルが高まることが考えられます。

もちろん、定額制や区分支給限度基準額からの除外など、他の利用者負担とは一線を画す形で「導入しやすくする」という案は当然出てくるでしょう。しかし、最終的に「⑥の導入を条件に」しつつ、今回は(意外にも?)政府が矛を収める可能性もありそうです。

内閣府や財務省の主導は一見強そうだが…

さらに(5)、(7)ですが、これは業界・職能・利用者団体等の反発が極めて強くなっているテーマです。特に財務省なども目玉としている(5)は、先の「現役世代の負担抑制」という効果に本当に結び付くのかという疑問符が、議論の最終段階まで付きまとうでしょう。

国としては、費用減のために事業費の上限額設定をさらに厳しくすることを考えている可能性もあります。しかし、そうなれば「保険者による報酬単価の引下げ」を危惧する業界団体などの反発はさらに強くなるは必然です。いわば、施策強化と反発増大が堂々巡りになっていくことも考えられます。

いずれにせよ、7案とも内閣府や財務省の主導が一見強そうに見えますが、実現はかなり絞られると見た方がよいかもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。