ケアマネの業務範囲を整えるなら 新たな「パートナー職」の整備も不可欠

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ケアマネの業務範囲が不明確になりがちなのは、長年指摘されてきた課題です。どこで線引きをすべきなのか、現状の追認などによって業務範囲の変化が生じた場合、報酬上の評価はどうあるべきなのか。要介護世帯をめぐる状況も刻々と変化する中、2024年度改定に向けて本腰の議論が求められています。

日本協会の調査と厚労省の調査を比べると

日本介護支援専門員協会による調査では、(1)「介護保険制度を超えた相談」が93.9%、(2)「トラブルにともなう緊急訪問」が91.8%、(3)「日常的な安否確認・見守り」が88.4%、(4)「介護保険制度を超えた行政手続き」が76.9%、(5)「入退院時の医療機関との手続き」が58.4%と高い割合を示しています。

ここで、2018年1月から2019年9月に限定した厚労省の調査研究と照らしてみます。上記(1)に該当する「介護や環境支援にはつながらない相談」が40.0%。(2)に該当する「徘徊時の捜索」が18.4%、「転倒時の緊急的な対応」が28.9%。(4)に当たる「市町村独自サービスへの代理申請」が45.3%、「医療・介護・福祉以外の行政機関への代理申請や手続き、書類の受け取り」が28.9%となっています。

 (3)に該当する項目はありませんが、「制度を超えた対応をお願いされる」というさまざまな事象には、「日常的な安否確認・見守りをお願いされている」ケースも付随しやすいことが想定されます。その点では、厚労省調査のすべての項目において「横軸」的に発生していると考えた方がいいかもしれません。

ケアマネの職業倫理が絡む問題も含まれるが

先の日本介護支援専門員の調査と厚労省の調査は「生じた期間」が異なるので、一概に比較は困難です。ただし、厚労省調査では「わずか2年半強」の期間での発生事例ですから、こちらの方が深刻であるという見方もできます。つまり、2年半に生じた厚労省調査の事象が累積した結果、冒頭調査の8割、9割という数字につながっていると考えられます。

ちなみに、厚労省調査では、「預貯金の預かり、金銭の預かり」(6.4%)、「郵便物や宅急便の受け取り」(10.1%)など、いったんトラブルになれば、ケアマネ自身が損害賠償責任等を負うようなケースも一定程度見られます。業務範囲のあいまいさは、ケアマネの業務量負担の増大だけではなく、ケアマネ自身をさまざまな危険にさらすリスクもあるわけです。

もちろん、預貯金の預かりや郵便物の受け取りは、ケアマネの職業倫理が絡む問題であり、「業務範囲のあいまいさ」とは一線を画す必要はあるでしょう。しかし、「目の前の困っている人」の状況が深刻である場合、「ケアマネの倫理観欠如が問題」と指摘するだけでは状況はなかなか改善しません。

利用者とのやり取りはどうエスカレート?

ケアマネが一線を越えて職業倫理を踏み外してしまう場合、事情を掘り下げると「いきなりではない」というケースも見られます。

たとえば、制度上のグレーゾーンにかかる依頼(介護保険関連の手続きと同時に、制度外の行政手続きを代行するなど)について、悩みながらも「放っておけないし、この程度なら」という動機で応えてしまうことがあります。そうなると、利用者側としては「それをやってくれるのなら、これもお願いできるだろう」という意識が生じがちです。

「さすがにケアマネとしてできない」と断ろうとしても、「だったら、この間お願いした件はなぜ可能だったのか」と問われた時、説明に窮してしまうことも考えられます。この点で、ケアマネの業務範囲を制度的に明確にすることは、巡り巡って職業倫理に抵触する問題を防ぐことにもつながります。

ケアマネの業務範囲明確化がゴールではない

そのうえで解決すべきなのは、ケアマネだけが「利用者にとっての頼みの綱」となってしまう状況です。介護保険外での対応が必要な課題については、ニーズに応じた多様な機関が相談援助から解決までを担うというのが本来のあり方でしょう。しかし、利用者にしてみれば、「どこに相談していいか分からないし、なじみのない人が次々と入り込んでくるのも不安」という心理も働きがちです。

結果として「頼れるのはケアマネだけ」となった場合、実際の支援は他機関が担うとしても、常に「(支援への)つなぎの場面にはケアマネがいる」ことが、利用者にとっては最低限の要望として残ることになります。

であるとするなら、制度外も含めた多様な課題について、あくまで「他機関へのつなぎ」役に徹した役割を法令上で明確にし、その実務を評価した報酬体系(介護保険外での報酬も含める)を定めるべきでしょう。

もちろん、あらゆる制度上の「つなぎ」をケアマネが担うとなれば、どんなに報酬を上積みしても、「それに見合わない業務量になる」ことは必至です。その点では、別の「つなぎ役(社会福祉士資格を持つ生活支援パートナー的な存在)」を創設し、ケアマネはその「新たなつなぎ役」に「つなぐ」ことに徹するというしくみも同時に欠かせなくなってきます。

仮に2024年度改定で「ケアマネの業務範囲」が明確になったとしても、上記のような「新たなつなぎ役」が整備されるまでの間の暫定的なものにとどめるべきでしょう。仮に業務範囲が法令で定められたとしても、ゴールが見えないまま、改定のたびに範囲が広がっていくのでは根本的な解決にはなりません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。