急浮上した複合型の新サービス 既存資源の「効率運営」という狙いに注意

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11月14日の社会保障審議会・介護保険部会で、新たなサービス類型が提案されました。主に都市部のニーズを想定しつつ、通所・訪問サービス等を複合的に提供するというものです。狙いはどこにあるのか。また、実現される場合、たとえばケアマネジメント等にどのような影響がおよぶでしょうか。

すでに実践されているケースでの課題とは?

今回の新たなサービス類型については、単身・独居や高齢者のみの世帯などの多様な介護ニーズに応えるため、「既存資源」を活用した「柔軟なサービス提供」を目指すものです。この提案にあたり、厚労省側は「複数サービスを組み合わせて提供している法人(協同法人含む)」のケースを紹介しています。

その実践例には、いくつかの課題があります。たとえば、(1)多様なサービスを組み合わせていくと、区分支給限度基準額を超えてしまう恐れがあること。(2)1つのサービスの待機職員が他のサービスを提供する場合、現行の人員配置基準が壁となることです。

今回の新サービス案は、こうした制度上の課題をクリアすることが狙いといえます。(1)であるなら、複数サービスにかかる費用の体系を包括化すること。(2)であれば、複数サービスの組み合わせに際しての人員配置基準の緩和を図るという具合です。既存サービスを含めて、「包括化」と「基準緩和」という2つの改革を進めることが狙いといえます。

「経営の大規模化・協働化」の流れとの関連

地域包括ケアシステムといえば、在宅における生活・療養支援の限界点をいかに引き上げるかが、これまでも大きなテーマでした。そのためには、地域に手厚く資源を整備することが必要ですが、「費用の増大による保険財政の圧迫」と「労働力人口の減少による人材確保が困難さ」が課題となります。

これらを解決するのが、上記の「包括化」と「基準緩和」により、「既存資源を最大限に活用する」という方向性です。たとえば、全国的にヘルパー不足が深刻な中、他サービスで「待機時間」等が生じている職員をあてたりしながら効率化を図るわけです。

ただし、これを同一事業者で行なうには、一定以上の法人規模が必要になるでしょう。あるいは、複数法人による協働化という土台が求められます。その点で、財務省などが提案している「経営の大規模化・協働化」という流れにも沿うことになります。

複合サービスを包括的に提供するというと、「訪問」「通い」「泊まり」を柔軟に組み合わせた小規模多機能型が思い浮かぶかもしれません。しかし、上記のように「経営の大規模化・協働化によるサービスの包括化で、既存資源を効率的に機能させる」という点から、基本的な考え方は異なる点に注意が必要です。

利用者にとってのサービスの質や選択権は?

具体的にどのようなサービス提供スタイルになっていくのか、運営基準をどのように定めるのか、さらには、報酬体系をどのように設定するのか──これらについては来年に開催される介護給付費分科会で議論されることになります。ただし、「少ない資源を効率的に活かす」というビジョンにおいては、「利用者や現場従事者にとってメリットが担保されるかどうか」に注意することが必要でしょう。

たとえば、利用者側から見た場合、「多様なサービスの組み合わせで区分支給限度基準額のオーバーを防ぐ」というのは、1つのメリットでしょう。ただし、サービスの提供主体が大規模法人や特定の共同事業体に限定されるとなれば、利用者にとってのサービスの選択権が制限される可能性も出てきます。

仮にサービス提供の効率化だけが優先されてしまえば、適時適切というサービスの質の部分が損なわれかねません。そうした状況での選択権の制限は、利用者の不利益を加速させる懸念も生じるでしょう。

ケアマネの関与や現場従事者の負担にも注意

これを防ぐには、担当ケアマネによる質の高いケアマネジメントが不可欠です。ただし、複合的なサービスを包括的に提供するとなれば、果たして居宅ケアマネの関与がどうなるのかが気になります。たとえば、同一法人内のケアマネによるマネジメントとなれば、独立性・中立性の担保が問われてくるでしょう。

このあたりも介護給付費分科会の議論を待たなければなりません。問題は、今後も「既存資源の効率的な再編」という施策の流れが続くとするなら、質の確保にかかるケアマネジメントの重要性(さらには居宅ケアマネの報酬上の評価)を同時に議論することが欠かせないことです。このあたりも、今後の議論で注目すべき点でしょう。

一方、現場のサービス提供従事者の立場からすれば、職務が多様化する中で、働き方の環境が大きく可能性があります。これが従事者への新たな負担感をもたらさないかという点が気になります。しかも、報酬が包括化されれば、負担感に見合った処遇が果たして担保されるのかという点も課題になるでしょう。

さらには、従事者ごとのサービス提供の状況が目まぐるしく変わるとなれば、そのつどの情報共有のあり方にも注意が必要です。厚労省としては、インカム等のICT活用をカギと位置づけるでしょうが、従事者のメンタル面などをしっかり支えるしくみなどについても議論を重ねることが求められます。

新たなサービス提案を通じて、既存のサービスや働き方の質を再検証する機会にできるかどうか──この点が問われていきそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。