障害者総合支援法の改正案 介護現場でも注目したいポイント2つ

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障害者総合支援法など、一括法の改正案が今の臨時国会で審議されています(精神保健福祉法や難病法など含む)。介護現場として注目したい改正点や、今後の介護保険のあり方を視野に入れたポイントなどを取り上げます。

「居住地特例」の対象に介護保険施設等も

今回の障害者総合支援法等の改正案では、直接介護現場に影響を与える内容はわずかです。ただし、その中の1つとして注目したいのが、障害福祉サービスに適用されている「居住地特例」について。対象施設に介護保険施設等を含めることが盛り込まれました。

この場合の「介護保険施設等」の中には、特養ホーム等の介護保険施設だけでなく、介護付き有料老人ホーム(いわゆる特定施設)や養護老人ホームも含まれます。その点では、幅広い現場が対象となってきます。

そもそも「居住地特例」とは何でしょうか。これは、障害福祉を利用する当事者が障害者支援施設や障害者のグループホーム等に入所・入居している場合、障害福祉サービス等の支給決定は、施設等への入所・入所前に居住していた市町村が行なうというものです。施設等が数多く所在する市町村の財政負担を軽減する観点からの措置で、介護保険制度でいえば「住所地特例」にあたるしくみです。

介護保険利用者にも一定の障害福祉ニーズが

上記で述べたように、今回の改正案では居住地特例の対象施設に介護保険施設等が加わります。たとえば、介護保険施設等に入所・入居している高齢者に、義肢等の補装具(自立支援給付)や視覚障害による同行援護が必要になった時、その支給決定は「入所・入居前の居住地(居住地が明らかでない場合は所在地)」の市町村が行なうわけです。

2020年度に行なわれた実態調査では、先の介護保険施設等の約1割で、何らかの障害福祉サービスを利用している入所・入居者がいます。また、身体障害者手帳の所持者は、1施設あたり平均7.8人にのぼっています。

介護保険施設でのサービス給付には住所地特例が適用されている一方で、その利用者が障害福祉サービスを利用する場合の支給決定は施設がある市町村が行なう─となれば、財政負担に「ねじれ」が生じることになります。これを解消しようというのが今改正案です。

今後、障害がある人の高齢化も進む中、障害者手帳所持者の入所・入居も増えてくる可能性があります。そこで補装具などの障害福祉にかかる給付ニーズが発生した場合、申請先の自治体はどこになるのかという点で、施設側としても心得ておきたいポイントです。

障害福祉に誕生?「通過型」グループホーム

さて、今回の障害者総合支援法の改正案では、介護保険サービスと一見かかわりの薄い改正点でも、論点や課題などを押さえておきたい部分があります。というのは、社会保障全体を通して、国が進めようとしている施策の方向性が垣間見えるからです。

そうした改正点の1つが、障害者グループホーム等の支援内容に「1人暮らし等を希望する人に対する支援や退去後の相談等」が含まれることを法律上で明記したことです。加えて、社会保障審議会・障害者部会の報告書では、省令において「本人が希望する1人暮らし等に向けた支援」を目的とする新たなグループホーム類型の検討が示されています。

グループホームにおいて「1人暮らし等を希望する人への支援」が法律で明確化され、これを下敷きとして省令改正で同支援に特化したグループホーム類型ができる──今国会においては、この新たな類型を「通過型グループホーム」と呼ぶ向きもあります。

ちなみに、11月11日の衆議院・厚生労働委員会では、この新たな類型に対して野党側から以下のような質問がありました。それは、知的障害者等のグループホームの場合、入居者の(1人暮らし等を希望するなどの)主体的な意思決定が保障されるのかという点です。

介護保険でもますます問われる意思決定支援

たとえば、報酬上でのインセンティブの付け方によって、「1人暮らし」に向けた誘導的な対応が行われたりすることはないのか──といった懸念の声が、知的障害者の親族などから上がっているといいます。

こうした点について、先の障害者部会の報告書では、「ていねいに意思決定支援を行なっていくこと」の重要性を強調しています。これが制度的にきちんと保障される形になるのかどうか。今後の国会審議の注目点でしょう。

注意したいのは、先に述べた「通過型」という類型の考え方が、介護保険サービス等でも導入される可能性はないかという点です。認知症の高齢者で「グループホームを出て1人暮らしをする」というのは現実的ではないでしょうが、現に老健で「在宅復帰・在宅療養支援」というしくみがある中、この機能を拡大していくことは考えられます。

たとえば、独居高齢者が増え、特養の特例入所ニーズが高まるとします。そうした高齢者をいったん受け入れつつ、その間に在宅での支援体制(療養・生活支援のほか住まい支援なども含む)を整えていくという具合です。地域によって特養の一部に空床が目立つとされる中、特例入所の緩和だけでなく、上記のような「通過型」の支援拠点として展開させる枠組みが出てくることも十分考えられます。

いずれにせよ、ここでも大切なのは本人の意思決定であり、それが保障される体制が築かれるかどうかでしょう。社会保障全般を通じ、今後さらに大きなテーマとなりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。