負担増等は見送り確実の流れ? ただし、打たれている「布石」に注意

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12月7日の全世代型社会保障構築会議で、「論点整理(全世代型社会保障の構築に向けた各分野における改革の方向性)」が示されました。それによれば、介護保険の「給付と負担の関係」にかかる負担増や給付制限は、多くが見送りになりそうな気配です。一方、もう少し注視すると気になる面も見えてきます。

全世代型社会保障構築会議の論点整理では…

内閣府がかかげる全世代型社会保障のあり方については、今後の予算編成も含め、政府全体の施策に大きな影響を与えます。厚労省の介護保険部会の取りまとめ(取りまとめ案は、この部分のみ記載が次の部会に先送り)も、今回の内閣府側の論点整理によって左右される可能性が大きいでしょう。

改めて、この内閣府側の論点整理に着目します。まず、これまでの流れですが、9月28日に座長代理(主査)が示した「医療・介護制度の改革について」の論点提示では、「利用者負担、多床室の室料負担、ケアマネジメントに関する給付、軽度者への生活援助サービス等、高所得者への保険料負担」などのテーマが具体的に示されていました。

今回の論点整理では、これらの具体的なテーマが示されず、医療保険も含めた「負担能力に応じた負担と給付の内容の不断の見直し」を「2025年度までに取り組むべき項目」と位置づけただけです。会議では強い反発の意見書も出されましたが、少なくとも2023年の法改正による負担増および給付制限は、そのほとんどの見送りが現実となりそうです。

大幅な報酬引下げに向けた「布石」とは?

こうした状況については、2023年冒頭からの通常国会で、防衛費の大幅増に注力する。業界・当事者団体からの反発が非常に高まっている。2023年前半に行なわれる統一地方選を前に、与党からの突き上げが強くなった──など、さまざまな背景が推測されます。

ただし、先だって財務省が出した2023(令和5)年度予算に関する建議を見ても明らかなように、政府側の底流では「介護保険にかかる給付の適正化(削減)」への圧力は依然として強いままです。となれば、その次の改正(2027年度)では、利用者負担増や給付制限だけでなく、現場に対してより大きなインパクトの改革が行われる可能性があります。

それは、言うまでもなく「報酬改定率」、特に「基本報酬」の引下げです。それに向けた布石は、今回の全世代型社会保障構築会議の論点整理でも示されています。具体的に注意したい項目が、介護サービス事業所の「経営の見える化」と「経営の協働化・大規模化」、さらに「職員配置基準の柔軟化」です。

「経営の見える化」等が議論にもたらすもの

「経営の見える化」については、社会福祉法人以外も含めた全サービス事業者に対し、財務諸表などの経営情報を定期的に都道府県に届け出ることや、その情報を国がデータベース化すること等が示されています。

現在、報酬改定の資料となる介護事業経営調査(実態、概況)は、無作為抽出によって行われていますが、上記のようなデータベースができれば、実態把握の精度は上がってくるでしょう。財務省なども、こうした報酬改定に向けた土台の整備を求めています。

そのうえでの「協働化・大規模化」ですが、財務省建議で示されている以下の補足に注意が必要です。それは、「介護給付費の増大を防ぐ観点から(中略)大規模な事業所等をメルクマール(指標)として介護報酬を定めていくことも検討していくべき」というものです。

財政制度等審議会によれば、大規模事業所などの方が平均収支差率は高いというデータがあります。これに合わせて報酬改定率などを設定した場合、過去の改定よりも判断・対応が厳しくなることが予想されます。

2024年度の見直しは「穏やか」としても…

これらの改革が2023年度の法改正等で実現されるとして、「2024年度から新たなしくみを施行」⇒「2027年度改定に向けた議論でデータ等が適用される」という流れになりそうです。そうなれば、報酬改定に向けた議論のあり方も大きく変わり、介護報酬の厳しい引下げにつながる可能性が高まります。

もう1つ注意したいのが、3つめの「職員配置基準の柔軟化」です。「経営の見える化」によって「経営データの集積・分析」が進むとなれば、「配置基準を緩和している事業者など」の収支差率なども明らかになるでしょう。仮に「配置基準の柔軟化で人件費が削減され、利益率が上がった」という分析がなされれば、財務省などは強く注目するはずです。

仮説ですが、ICTや介護ロボット等のハイテク環境を十分に整備し、現場に浸透させることができる事業者は「母体法人の規模が比較的大きい」ことが想定されます。そうなると、先の大規模化のメルクマールに、業務効率化の中で配置基準の柔軟化を図っている事業所という対象が、報酬設定における「もう1つのメルクマール」になるかもしれません。

こうして見ると、仮に2024年度に厳しい改革が断行されないとしても、2027年度にはどうなるでしょうか。改めて負担増・給付制限へのプレッシャーがきつくなるとともに、それ以上に厳しい介護報酬の引下げが提示される──という未来図も浮かんできます。そして、その布石が今回打たれているわけです。

一見、負担増や報酬減には関係なさそうな制度見直しであっても、現場として注意深く議論の行方を見守ることが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。