労働者協同組合がいよいよスタート 介護保険の未来はどう変わっていくか?

イメージ画像高齢者人口の増加による介護ニーズの拡大、少子化にともなう将来的な担い手の不足、社会環境の変化にともなう生活課題の多様化と複雑化──2024年度の介護保険制度見直しは、この3つのテーマが絡み合う中で進められます。困難な壁を乗り越えるカギの1つとして注目したいのが、労働者協同組合です。

そもそも労働者協同組合のしくみとは?

労働者協同組合法が、2020年12月の臨時国会で全会一致によって成立し、同年10月から施行されています。この新法により、労働者協同組合という新たな法人枠が誕生しました。関心を持っている人も多いと思います。

改めて、この労働者協同組合の大きな特徴を上げると以下のようになります。
(1)現場で働く労働者が「組合員」として出資する(出資者の5分の4は従事者、従事者の4分の3以上は組合員であることが必要)。(2)組合員は1人1票の議決権と選挙権を持っている(株式会社の1株1票とは異なり、「人」が中心)。(3)事業に従事する組合員は、組合との間で労働契約を結ぶ(労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令が適用される)。

株式会社のような出資配当はなく、組合員はあくまで「従事した程度」に応じた配当を受け取ります。営利を目的とした事業を行なってはならず、労働者派遣事業を行なうことも禁じられています。また、(2)にあるように「組合員は1人1票の議決権がある」ということは、運営に関して必ず組合員(全従事者の少なくとも4分の3)の意見を聞かなければならず、その方法も定款で定められます。

NPO法人との違いは? 介護への参入は?

同じ非営利法人であるNPO法人と何が違うのでしょうか。NPO法人の場合は「出資」が認められていないため、事業に必要な資金について、寄付金や補助金、融資などに頼ることになります。その点では、寄付をめぐる環境や補助金にかかる制度などの要因に左右されない運営が実現しやすくなるわけです。

また、組合員による出資で成り立つしくみに企業組合がありますが、こちらは「出資するだけ」という組合員も多く、現場従事者が運営に関して意見を述べるという環境が整っているとは限りません。その点で労働者協同組合は、「働く人の一定以上で組合員として出資し、同時に事業運営に直接かかわっていくことができる」という点が特徴といえます。

では、この労働者協同組合が介護保険事業にかかわる可能性はあるのでしょうか。実際、通所介護を立ち上げたNPO法人が、労働者協同組合が誕生したことで、そちらに移行しているケースがあります。今後は、介護保険法や関係省令の改正などを通じて、労働者協同組合を介護保険事業の母体法人として明確に位置づける動きも出てくるでしょう。

2024年度以降の介護保険にもたらすもの

さて、この労働者協同組合の誕生により、介護保険制度のあり方にどのような影響がもたらされるでしょうか。2024年度の制度見直しも見すえながら、探ってみましょう。

政府の全世代型社会保障構築会議の報告書では、「地域の拠点となる在宅サービス基盤の整備と機能強化」を求めています。ただし、これを受けての2024年度に向けた具体案は、テクノロジーの導入・活用促進による生産性の向上や職員の配置基準の柔軟化、そして事業経営の協働化・大規模化などが中心です。

厳しい環境下では、「被保険者と現場における担い手」のニーズをきちんと取り込みつつ、今後も上昇していく保険料負担に見合うサービスの価値を高めていくという道筋が必要です。しかし、どちらかというと、上記の改革案は「経営側(介護保険を運営する国や自治体も含む)」の視点に立ったものです。

「担い手不足」が進むことを前提として、サービスの必要量を確保するというビジョンだけならば、政府がかかげる改革案も1つの手段ではあるかもしれません。しかし、それが上昇する保険料や従事者負担に見合うだけの価値につながるのかは疑問の余地があります。

地域住民・従事者が創り出す新たな風土

これに対し、先に述べた労働者協同組合であれば、地域の人々が出資を通じて「どのようなサービスに価値があるか」という問題意識を形にすることができます。また、従事者も組合員として運営に参画する(きちんと意見を言える)中で、「本当に働きがいのある介護現場とはどういうものか」を模索し、それを手作りする風土を築くことができます。

確かに、介護報酬という限られた収益源の中で現場を手作りしていくことは、決して簡単ではないでしょう。しかし、経営側からのトップダウンに従うだけという環境下では、現場従事者による創造性はなかなか発揮されません。厳しい環境下でも「自分たちはどうあるべきか」を一人ひとりが「自分ごと」として考える機会を持つことは、納得できる働き方・貢献の仕方を実現するうえで重要です。

さらに重要なことは、「制度のあり方がこれでいいのか」という問題意識に立ったとき、出資者の立場から、きちんと国や自治体に「物を申していく」という風土も培われることです。もっとも身近で、それを受け止める自治体(都道府県・保険者)としても、事業者との新たなコミュニケーションや協働のあり方を意識しなければならない時代となります。

やや長い目で見た「変化」かもしれません。しかし、労働者協同組合の介護保険事業への参画が、来るべき2025年、そして2040年に向けて大きな土台となることが期待されます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。