「2021年の介護サービス施設・事業所調査」では、サービス種別によって事業所数の増減に明らかな差が生じています。特に対前年からの伸びが目立つサービスが、訪問看護や看護小規模多機能型。事業所数の伸びが停滞している訪問・通所介護や、減少の一途をたどる居宅介護支援事業所とは対照的です。
過去10年で、訪問看護事業所数は1.7倍に
上記の調査結果を見ると、2020~2021年(ともに10月1日時点)の事業所数の伸び率は、訪問看護で9.4%、看護小規模多機能型で実に14.9%となっています。後者は事業所数自体が少ないので伸び率は参考程度ですが、訪問看護の増加数は1,161と1000台に。
ちなみに、近年の請求事業所数の伸び(こちらは介護給付費実態統計より)を見ると、過去10年で1.7倍増。訪問看護ステーションに就業する看護職員数(衛生行政報告例より)は、2倍以上の伸びとなっています。
これに対し、利用ニーズの高い訪問介護で事業所数の伸び率は1.5%(増加数537)、地域密着型を含めた通所介護で伸び率0.5%(増加数252)にとどまります。以前も取り上げましたが、居宅介護支援に至っては伸び率がマイナス0.6%(減少数237)。これらと比べても、看護系サービスの資源拡充がいかに進んでいるかが分かると思います。
利用者の高齢化にともなって、在宅での重度療養や看取りのニーズが高まり、それに対応するだけの事業所参入が進んでいるという背景があるのは間違いないでしょう。この傾向は、2024年度以降も続くと思われます。
ただし、地域によって必要人員が確保できず
ただし、資源の拡充が地域単位のニーズに追いついているかとなると話は別です。
たとえば、今年1月16日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、2020年に提示された地方分権改革案に関しての審議が行われました。地方から示された支障事例は、「人口が少なくサービス利用の確保が難しい中山間地域では、看護師の離職による(事業所の)休止・廃止等の支障がある」というもの。つまり、基準人員の2.5人を確保できない、あるいは看護職員の人件費に見合う収入を確保できないというわけです。
そこで、課題が深刻な地方から、配置すべき看護師等の員数を「従うべき基準」から「参酌すべき基準」にすることが提案されました。
ご存じのとおり、「従うべき基準」というのは、自治体が基準に関する条例制定を行なう際に、「厚労省令で定める基準に従い定めるもの」。一方、「参酌すべき基準」とは、「厚労省令で定める基準を参照して定めるもの」です。後者が適用された場合は、実質的に自治体独自の判断で基準緩和が可能になります。
2021年度の特例居宅介護サービス費見直し
この提案に対し、2021年度改定では、「当面の措置」として「特例居宅介護サービス費を活用しやすくする」ことになりました。特例居宅介護サービス費といえば、「離島などサービスの確保が著しく困難な地域」を対象に、市町村が認めれば通常の人員基準を満たさなくてもサービス提供を可能にするしくみです。これを「活用しやすくする」ため、特別地域加算との「あわせ申請」だったのを「別々での申請」を可能とするしくみにしました。
上記はあくまで「当面の措置」なので、その後に「参酌すべき基準とするか否か」が論点として残ります。1月16日の分科会では、「当面の措置」の利用状況を踏まえたうえで、引き続き「従うべき基準とする」という対応案が示されました。要するに、訪問看護にかかる一律の人員基準緩和については、今年半ばから本格化する2024年度改定の議論へと持ち越されたことになります。
もちろん、「中山間地域にサービス資源が足らない」など、資源が偏在している課題は、看護系サービスに限った話ではありません。受給者1人あたりのサービス量を見ると、都道府県別というくくりでも、訪問看護以上に差が大きいのは訪問介護です。その点で、偏在化は全サービスを通じた課題であり、2024年度に向けた大きな論点となるのは確実です。
新複合型サービスが一気に拡大する可能性も
そうした中、サービス偏在の課題解決に向けて浮上しそうなのが、昨年の介護保険部会で提起された「複合型サービス類型」の拡大です。取りまとめでは「訪問介護+通所介護」が例に上がっていますが、さらに多様なサービスに拡大する可能性もありそうです。
たとえば、看護小規模多機能型。すでに複合型として位置づけられているサービスですが、登録利用者以外への「訪問看護」についても、別に事業者指定を受けたうえで実施が可能とされています。訪問看護の偏在を解決するという流れで、これを「中山間地域などでは、改めて事業者指定を取得しないでも(登録利用者以外への)提供を可能とする」といった案が出てくることも考えられます。
少なくとも、資源の偏在状況を解消するべく1つの事業所で多様なサービスの提供を可能とする流れが強まる点は、頭に入れておく必要があります。その場合、実質的に包括的なサービス環境が広がる中、ケアマネジメントとのかかわりも課題となっていきます。
事業所の大規模化を含め、サービス再編が進むとなった時、地域の居宅介護支援事業所の位置づけはどうなっていくのか。ケアマネ不足によって採用困難な事業所が増えていけば、国としても居宅介護支援の関与の範囲を狭める動きに乗り出すことも考えられます。今後の議論で注目したいポイントの1つです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。