居宅介護支援の収支差率が大幅改善 本当に実態を反映しているか?

イメージ画像

2月1日の社会保障審議会・介護給付費分科会で、最新の介護事業経営概況調査の結果(案)が示されました。注目は、厳しい状況にあった居宅介護支援の収差率が、2021年度決算で4.0%(コロナ関連補助金を含まないケースでも3.7%)まで改善したことです。

2021年度改定前から大幅改善。その要因は?

居宅介護支援については、2019年度決算でマイナス1.6%(実態調査)だったのが、2020年度決算で2.5%(概況調査)でプラスに転じ、そして上記の2021年度決算に至ります(いずれも税引前の数字)。2020年度決算でコロナ関連補助金を含まないケースでも1.9%ですから、1年でプラス3.5%という著しい経営改善が見られたことになります。

2020年度決算は、2021年度のプラス改定の前ですから、報酬改定とは別の要因が働いいていることになります。となれば、環境面で考えられるのは新型コロナの感染拡大ということになります。先に述べたように、コロナ関連補助金を含まないケースでも、これだけの改善を見せているとなれば、コロナ禍そのものにおいて利用者動向や事業運営のあり方が変わったと言わざるを得ないでしょう。

ちなみに、利用者や従事者に「陽性者や濃厚接触者が発生したケース」と「それ以外」の比較では、前者の方が収支差率の改善度が高くなっています。また、コロナ禍でサービスの「休止や縮小などを実施したケース」と「それ以外」では、やはり前者の改善度が上回ります。この点に限れば、他のほとんどのサービスと真逆の結果となっています。

コロナ禍、実利用者数が急速に伸びている

居宅介護支援においては、通所系サービスのようなコロナ禍での報酬上の特例(上乗せや区分変更など)はありません。ただし、利用者のサービス休止時でも必要な書類等を整備すれば報酬請求を可能としたり、月1回の訪問によるモニタリングなど基準上の柔軟な取り扱いといった規定が設けられました。

こうしたしくみが最大限に活かされた──という見方もあるでしょうが、それにしても改善の度合いは高いと言わざるを得ません。

最新調査の細かい数字を見ると、ストレートに経営改善につながっていると思われるのは、「実利用者数の伸び」です。2018年度改定以降の1事業所あたりの平均実利用者数を見ると、2018年度決算時「91.6人」⇒2019年度決算時「93.7人」⇒2020年度決算時「98.8人」と伸びが加速している様子が浮かびます。

一方、事業所あたりの介護報酬による収入(介護料収入)は、2018年度決算時「113.7万円」⇒2019年度決算時「112.5万円」⇒2020年度決算時「119.1万円」⇒2021年度決算時「125.5万円」となっています。やはり2020年度で一気に収入増となっています。

「逓減制にかからない」という臨時的取扱い

こうした数字上の急変には、どのような要因が考えられるでしょうか。たとえば、以下のような仮説も浮かびます。

まず、2020年度のコロナ禍で、ケアマネ1人あたりの担当利用者数が増えたことです。この時点では、(2021年度改定での)逓減制の緩和は図られていません。しかし、コロナ禍での他事業所の休止などで、「より多くの利用者を受け入れざるを得ない」という状況が発生した可能性はあるでしょう。

ご存じのとおり、他事業所の休止等で利用者を受け入れざるを得ない場合、担当件数が逓減ラインを超えても介護報酬は減額されないという通知があります。これにより、仮に逓減ラインをオーバーしなくても、「(逓減制を気にせず)ぎりぎりまで利用者を受け入れた」というケースが考えられるわけです。

もちろん、担当ケアマネに過剰な負担が生じることは、事業所としても避けたいところでしょう。ただし、先に述べた各種実務上の柔軟化が図られる中、受け入れやすい環境ができたことは追い風となります。

また、奇しくも2021年度改定に向けた介護給付費分科会の議論が進んでいる最中です。「将来的な逓減制の緩和」が視野に入ってくれば、この時点で利用者数を増やしつつ、体制づくりの準備を進めるという経営側の判断が生じていた可能性もありそうです。

調査対象も減少傾向。実態把握の精度は?

ただし、注意したいのは、「利用者数を増やさざるを得ない」という状況が、地域における感染拡大の有無にかかわらず生じているケースです。たとえば、高齢化にともなう利用ニーズの拡大に対して、地域の居宅介護支援事業所が足らなくなっているという構造的な問題が絡んでいる点も無視できません。

つまり、仮に実務上の柔軟的な取り扱いが適用されなくなっても、ケアマネ1人あたりの利用者数は(逓減制緩和の後押しもあり)さらに増え続けることが想定されます。そうなると、収支差率は改善したが、現場のケアマネの労働負荷が賃金の上昇とバランスが取れているのかを考察することが必要です。

そして、もう1つ注意したいのが、今回の概況調査がそもそも実態をきちんと反映しているのかという点です。今回の調査の有効回答数は590で、2013年度時点の概況調査と比べるとほぼ半分です。ただでさえ全国の事業所数は3万9000以上あるわけですから、わずか1.3%を把握した数字に過ぎません。

こうして見ると、今回の調査結果をそのまま受け取るのは、「現場の特殊事情」や「調査の精度」という観点から課題は少なくないでしょう。今回の結果をもとに2024年度改定の議論が進むとなれば、さまざまな留意点を明らかにしていく必要ありそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。