2024年度ケアマネ研修が新カリキュラムに。これから求められるスキルを整理する

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2024年度から、ケアマネの各種法定研修のカリキュラムが見直されます。その改正内容が告示されました。全体を通して「適切なケアマネジメント手法」の反映や「他法・他サービス理解」の拡充が目立ちます。求められるスキルがどのように変わるのかを見すえます。

まず注目したい、「人格の尊重」等の時間増

まず実務研修のカリキュラムですが、改正内容で特に目立つのは、ケアプラン作成やサ担会議の意義・進め方、モニタリング・評価といった実務上の基礎知識についての講義および演習の時間が減らされたことです。その分、冒頭で述べた「適切なケアマネジメント手法」や「他法・他サービス理解」に関する講義や演習の新設・時間増が図られています。

「適切なケアマネジメント手法」というと、「疾患別ケア」のみにスポットが当たりがちですが、土台となる「基本ケア」にかかる研修科目の拡充にも注意が必要です。

たとえば、「人格の尊重および権利擁護、ならびに介護支援専門員の倫理」。科目自体は改正前からありますが、講義時間が2時間から3時間へと増やされました。ここに「基本ケア」の重要項目が反映されると考えられます。

「基本ケア」では、基本方針の冒頭で「尊厳を重視した意思決定の支援」を取り上げています。その「意思決定の支援」のために、利用者自身の疾病や心身の状態への理解の支援(気づきを誘う質問など)を手がけ、主体的な意思決定につなげていく──それが利用者の尊厳確保に向けた基本となるわけです。

もともと科目名に「権利擁護」とあるため、成年後見制度などの活用が思い浮かびがちですが、そうした狭い意味の知識だけではありません。大切なのは、その人自身が「どうありたいか」を主体的に決定するための支援のあり方です。専門職による誘導的な支援の提案なども生じがちな中、あくまで本人の主体性を擁護していく理念が込められています。

「利用者の生活の継続」がよりはっきりと

こうしたケアマネとしての倫理上の土台を固めたうえで、本人が主体的に望む「生活の継続」を実現するうえで何が必要なのか──それを明らかにするための知識と技能の習得が目指されているととらえるべきでしょう。

そのあたりは、「科目名」の変更にも現れています。たとえば、「医療との連携および多職種協働の意義」の前置詞で、改正前は「ケアマネジメントに必要な」でしたが「生活の継続を支えるための」に改められた点です。

要するに、チームケアをめぐって、「利用者の生活の継続」という目的が「科目名」でもはっきりと打ち出されたことになります。

そのうえで問われるのは、「生活の継続」という目的に向かって、チームケアを有効に機能させるための条件です。何より、職種を問わず円滑な情報共有が必要です。それがあってこそ、各専門職の立場からケアマネに対して、的確な提案が可能になるといえます。

この情報共有の円滑化に向け、講義および演習の多くが「適切なケアマネジメント手法」の「疾患別ケア」に沿って再編されています。また、行政職や障害福祉関連の職種との連携に関して、「他法他制度の活用が必要な事例のケアマネジメント」の科目が新設されました。

さらに、更新研修のカリキュラムでは、「リハビリテーションおよび福祉用具等の活用に関する理解」が計4時間設けられています。これも、リハビリ専門職や福祉用具専門相談員との間で、サービスの必要性にかかる認識の共有を強化する視点があると考えられます。

プラン作成も重要だが、それ以上の重心点

こうしたカリキュラム変更から、どのようなビジョンが浮かんでくるでしょうか。
確かに、「ケアプランを作成してサ担会議にかけて発効、その後に評価してモニタリングを実施する」といった一連のケアマネジメント実務を学ぶことは重要です。しかし、それ以上に「連携の質を上げてチームケアを機能させる」ための知識・技能を修得する──こうした方向に重点が移ってきたといえます。

そして、連携の質を高めるための円滑な情報共有を進める中で、先に述べた「利用者の主体的な生活の継続」が図れます。逆に、新たに「利用者がこうした生活の継続を望む」という意向が浮かんでくれば、その実現のために多職種との情報共有を図るという流れも形成されます。つまり、両者はリンクすることで良循環を生み出すことになるわけです。

ケアマネの役割が、こうしたリンクの中で位置づけられる様子が浮かんできます。

新カリキュラムで多職種連携はどこまで進む

ただし、ケアマネの中には、自分たちの「疾患別の見立て力」や「他法他制度の理解力」を高めることだけが、本当に多職種連携のカギなのか──という見方も少なくありません。

実際、今回の研修カリキュラムの改正に向けて募集されたパブリックコメントでは、多職種連携の重要性は認識しているものの「『適切なケアマネジメント手法』について学ぶ必要のある科目か疑問がある。(中略)医療職になるわけではない」という意見も見られます。

「適切なケアマネジメント手法」への理解がまだ浸透していないこともあるでしょうが、どうも現場レベルでの医療職等へのさまざまな不信感が根っこにありそうです。ケアマネ側が「医療職等と通じる言葉」をいくら高めても、相手側の介護保険への理解不足なども壁となりがちな現実があるわけです。

こうした部分を事例検討や演習等でいかに埋めていくことができるか。新カリキュラムの施行に際して、特に研修実施者である都道府県でじっくり検討が必要な部分といえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。