社会保障審議会・介護給付費分科会で、2021年度介護報酬改定の効果検証等の調査結果(2022年度調査)が示されました。その中から、介護現場でのテクノロジー活用に関する調査研究に着目してみます。たとえば、居宅における介護ロボット導入の可能性という観点から浮かぶ未来像や課題は何でしょうか?
訪問系での介護ロボット導入状況も調査
テクノロジー活用をめぐる2021年度改定といえば、見守り支援機器やインカム、ICT機器等の活用などを要件とした夜間の人員基準や夜勤職員配置加算などの要件の緩和が注目されます。これらは「入所・泊まり・居住系」が対象で、今調査でもこうしたサービスでの緩和適用の状況が調査されています。
一方で、基準・報酬改定に関する項目にとどまらず、入所・居住系以外の「訪問系」や「通所系」での介護ロボット導入状況など、より広い視点での調査も含まれています。中でも注目したいのが、「従事者が単独でサービスにあたる」ケースの多い「訪問系」です。
というのは、たとえば「ホームヘルパー」で65歳以上の従事者が24.4%と、ほぼ4人に1人という現状があるからです。しかも自人員の不足感(大いに不足+不足+やや不足)は8割超で、不足感の強い介護分野全体の中でも飛びぬけて高くなっています(いずれも、2021年度介護労働実態調査より)。
単独でのサービス提供が多いことに加え、従事者の著しい高齢化と不足感という厳しさが上乗せされている状況は、介護保険サービスの全体の中でも特に見過ごせません。サービス資源の維持を図るためには、処遇改善による人員確保もさることながら、介護ロボット等の有効活用による「訪問系の労働負担の軽減」も優先的に議論されるべきでしょう。
訪問系での「移乗支援機器」の内容とは?
調査では、訪問系での「介護ロボットの導入概況」の対象としているのが「移乗支援機器」です。主なものとしては、(1)前面支持型移乗支援機器、(2)離床アシストロボット、(3)装着型介護支援機器の3つが想定されます。
(1)は、前面から利用者を抱きかかえるような形で支え、ベッド⇔車いす⇔トイレなどの間の移乗をアシストするもの。(2)は、たとえば介護用電動ベッドの半分が分離して車いすに変形することで、移乗介助の負担を軽減させるといったもの。(3)は、介護者にアシスト機器を装着することで、中腰姿勢の維持や持ち上げ動作での腰部にかかる負担を軽減するもの(国立長寿医療センターの資料より)。
(3)については、バッテリー使用のモーターによってアシストするものや、空気圧による人工筋肉を利用するものなどがあります。後者は「動力なし」で腰部をサポートするものであり、駆動系などのロボット技術を用いたものとしては前者ということになります。
装着型アシスト機器の導入費用をどうするか
このように、移乗支援機器でもさまざまなものがありますが、今調査で訪問系での導入状況はわずか0.9%。導入していない理由としては、やはり「導入費用が高額(40.0%)」がもっとも多くなっています。
たとえば、上述した3つのうち、(1)、(2)については福祉用具貸与の対象となる製品もあります。(ただし、あくまで利用者の生活機能の向上が目的であり、利用者の意向に反して「従事者の負担軽減のため」に貸与をお願いすることはできません)
これに対し、(3)は福祉用具貸与の対象にもなっていませんから、事業者としては介護ロボット導入支援事業等を活用しながら導入費用をまかなうことになります。ただし、国が下限として設定する補助率は3/4(一定条件を満たした場合)または1/2なので、いずれにしても事業者の負担は発生します。
事業者側にとって、「それだけの費用をかける価値がある(それによって、ヘルパー確保につながるブランド力となる)」という経営判断を持ちえるのかどうかがカギとなります。
事業者とヘルパー、「必要性」の認識に差?
ちなみに、「導入していない理由」の2番めに「導入する必要のある課題や必要性を感じていない(36.3%)」が上がっています。
ここで問われるのは、事業者が現場のヘルパーの声などをどれだけ聞いているのか(現場のヘルパー自身が必要性を本当に感じていないのか)──という点でしょう。
たとえば、先の(3)のアシスト機器(アシストスーツ)を実際に装着してみることで、「これは負担軽減につながる」とヘルパー自身が強く実感するかもしれません。もちろん、機器によって「装着の手間が一定程度生じる」という課題はあります。しかし、それは装着・活用の研修・訓練を繰り返すことで、十分カバーできる可能性はあるでしょう。
いずれにしても、事業者としては「サンプル等を取り寄せて、実際にヘルパーに装着・体感してもらう」⇒「当のヘルパーから実感をヒアリングする」⇒「導入に向けて装着・活用の研修機会を設ける」という流れが必要になります。この過程を、事業者に「必要なこと」と判断させるには、次期改定の議論において基準上の規定や報酬上のインセンティブなどを論点とすることも求められます。
地域によっては、訪問介護の資源は急速に縮小しつつあります。今後の資源拡充に向け、国として介護ロボットの活用に期待を寄せるのであれば、訪問系でのアシスト機器の活用を、現場のヘルパー目線で推進する時期に来ているのではないでしょうか。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。