少子化対策への他制度支援を論じる前に やるべきことがあるのでは?

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政府が強く推し進めている「少子化対策」ですが、その財源確保に向けて「医療や介護の保険料の一部をあてる」という議論が見られます。現状、政府は明言していませんが、いずれ各種検討会でも論点として浮上してくる可能性は高いといえます。

後期高齢者医療から出産育児一時金への支援

ご存じのとおり、通常国会で審議されている(5月10日時点)健康保険法等の改正案では、「出産育児一時金」の増額に向けて、現役世代の医療保険に加え、後期高齢者医療制度からの支援のしくみが加えられています。
出産費用そのものは医療保険の適用外ですが、その費用にかかる経済的負担を軽減することを目的として、医療保険からの給付が行われます。これが「出産育児一時金」です。

現状では、各医療保険(被用者保険や国保など)に加入する被保険者が出産するケースを想定したしくみです。そのため、「他制度からの支援」というより、「その制度本来の目的に沿った拠出」と位置づけられてきました。

しかし、後期高齢者医療制度の場合、制度対象者による出産の可能性はほぼないので、明らかに「他制度のための支援」となります(後期高齢者医療制度の創設前は、被用者保険や国保に加入していたので、制度の枠内で間接的に支援が行われていました)。

今法案を皮切りに「支援」のさらなる拡大も

今回の改正案が成立した場合の後期高齢者1人あたりの負担増額は、政府の試算では年間600円(月あたり50円)なので、さほど大きな負担とは言えません(ただし、現役世代からの支援分の負担割合も変わるので、それを含めると、政府試算で年間4600円の負担増になるとされている点に注意)。

とはいえ、今回の制度改正が、直接当事者とならない人々からの支援のしくみに向け、「扉を開いた」と見ることはできるでしょう。

もちろん、年金や後期高齢者医療制度でも、現役世代による負担が大きな財源となってはいます。しかし、「子どもを産む・産まない」という主体的な選択が絡む部分で、さまざまな他制度からの支援が位置づけられるというのは状況が異なります。また、各制度の「本来的な目的」に沿うのかどうかという点も議論となるのは間違いないでしょう。

少子化対策が介護施策にもたらす効果とは?

たとえば、介護保険料の一部が「子育て支援」に使われるとします。制度の趣旨にのっとって被保険者が納得できるかどうかは、「子育て支援」が、介護施策上にどのようなメリットをもたらすのかが問われてきます。

いろいろな意見があると思います。たとえば、「今、少子化対策に力を入れないと、将来的に介護保険を(財政的にも、サービス提供のマンパワーの面でも)支える人がいなくなる」という理屈も出てくるかもしれません。

しかし、この考え方は「子ども」を将来的な拠出者、あるいは労働力として位置づける考え方です。どちらかというと、「人」を制度のコマに位置づけているようで、人間性の尊重という理念があまり伝わってきません。

そもそも「少子対策」というのは、子ども安心して産み育てられる社会を作ることが、すべての人の「幸せ」につながるという理念がベースにあるはず。それがあってこそ、国民的な合意が得られるものでしょう。

その点を考えたとき、真の少子化対策というのは、それぞれの社会保障制度が「国民の期待通りに機能している」という状態があってこそ成り立つものです。つまり、「社会制度への信頼」と「多様な生活にかかる安心」があれば、「子どもを産み育てたい」という思いへの障壁はおのずと取り除かれるわけです。

既存の社会保障を機能させることが基本

ちなみに、子どもを産み育てる世代にとっても、「介護」をめぐる制度が機能しているかどうかは生活上の重要なポイントです。

たとえば、近年「ヤングケアラー」とともに注目されているのが、子育てと介護を同時に行なう「ダブルケア」です。このダブルケアについては、政府が直近で行なった調査が2016年。それによれば、15歳以上で「ダブルケアを行なう者」の割合は約0.2%。就業構造基本調査によって推計される「ダブルケア」人口は約25万人とされていました。

ところが、その後、さまざまな企業や自治体が「ダブルケア」についての調査を行なったところ、上記の数字をはるかに上回るデータも浮上しています。「現在ダブルケアを行なっている」という割合を見ると、2%台から10%以上までとバラつきがあり、どのデータを信じてよいか迷うところです。

少なくとも、政府が直近で行なった調査以降、晩婚化がさらに進んだことなどにより、ダブルケアが急増している可能性があります。また、上記のような調査ごとのバラつきがあることを考えれば、再び国が責任をもった統計をとることが望まれるでしょう。

仮に「ダブルケア」等が深刻化しているとするなら、その一翼をサポートする介護保険の保険料を他制度支援に回している余裕はありません。皮肉なことに、それ自体が「産みたくても産めない」という状況を創り出し、少子化を進めてしまう恐れもあるわけです。

いずれによせ、基本は「それぞれの社会保障制度をきちんと機能させる」こと。威勢のいいスローガンではなく、上記の基本を地道に実践する以外、少子化対策を解決する道筋はないと考えた方がいいでしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。