人生の最終段階における意思決定支援。 問われるのは専門職自身のあり方

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2024年度の介護・医療・障害福祉のトリプル改定に向け、社会保障審議会で介護側と医療側の意見交換会が3回にわたって行われました。各テーマの中から、今回は「人生の最終段階における医療・介護」を取り上げます。

問われるのは、当事者と支援者の間の信頼感

2022年に年間死亡数が150万人超となり、今後も2040年頃まで右肩上がりが続くと予想されています。一方で、死亡場所は依然として「医療機関」が多いものの、近年は「自宅」や「介護施設等」が増えつつあります。

上記の状況から、自宅での看取りニーズは、今まで以上にペースアップすることは間違いありません。居宅のケアマネとしても、「自宅での看取り」を前提としたケアマネジメントの足元をしっかり固める必要があるでしょう。
重要ポイントの1つは、今回の意見交換でも取り上げられている「人生の最終段階における医療・ケアに関する意思決定支援」です。

「人生の最終段階」とはなっていますが、特定のタイミング(ターミナル期と診断された時など)で、いきなり意思決定を支援しようと思っても円滑に行なえるものではありません。なぜなら、本人にとっては、支援者との信頼関係が十分に築けていてこそ、自身の正直な意思を伝えることができるからです。

その点では、日頃から手がける意思決定への支援が土台となります。意見交換会で示されたデータでも、「日々の診療等の中での話し合い」を意識しているケースが一定程度見られます。ケアマネとしても、どのようなタイミングでも「意思決定支援」を意識することが重要なのは言うまでもないでしょう。

ケアマネの新カリキュラムでも重要項目に

ケアマネジメントにおける利用者への意思決定支援は、2024年度からの法定研修の新カリキュラムでも重点が置かれています。

たとえば、今年4月に厚労省が示した新カリキュラムの実施要綱では、「(利用者の)人格の尊重および権利擁護ならびに介護支援専門員の倫理」の科目に、以下の内容が追加されました。それは、「認知症、身寄りのない高齢者、看取りのケース等における意思決定支援の必要性や、意思決定に向けた支援プロセスに関する講義を行なう」というものです。

ちなみに、新カリキュラムの土台の1つとして位置づけられているのが、いわゆる「適切なケアマネジメント手法」です。ご存じのとおり、「適切なケアマネジメント手法」では、「基本ケア」の基本方針のトップに「尊厳を重視した意思決定の支援」が置かれています。

ケアマネとしては、この「尊厳を重視した意思決定の支援」において、必要となる支援の概要や関連するアセスメント・モニタリング項目を把握できているかどうかが問われることになるでしょう。このあたりは、行政のケアプラン点検でも集中的にチェックの対象になることが想定されます。

入口は、適切な情報提供と当事者側の理解

「基本ケア」の「尊厳を重視した意思決定の支援」において、具体的な支援内容による大まかな流れは以下のようになります。

まず、主体的な意思決定のためには、自身の疾病や心身の状態について、本人や家族が理解できるように支援することが必要です。そこでは、理解のために必要な情報をいかに適切に提供できるかがポイントとなります。

こうした本人・家族による「理解」という土台を築いたうえで、表明された意思をどのようにとらえるか、それをいかに尊重しチームで共有するかが問われます。

ケアマネの中には、最初の「本人・家族の理解を得る」という時点で「難しい」と考える人もいるのではないでしょうか。「本人や家族にとって『(病状など)聞きたくない情報』もあるはず」、あるいは「そもそも認知症の人にどこまで理解を求めるのか」といった疑問も先に立つことがあるからです。

ルーチンに陥らないための自問自答が必要に

そこで必要となるのは、たとえば「本人・家族が『その情報を聞きたくない』と思うのはなぜか」に思いが至るかどうかです。

「聞きたくない」というのは、多くの場合「聞いたところで失望感が増すだけ」といったあきらめなどが背景にあります。根っこには、制度やかかわる専門職への不信があったり、実際に「過去に失望したことがある」という経験や生活歴が絡んでいるのかもしれません。

となれば、その「不信」をいかに解きほぐしていくかが必要なステップとなります。不信を解きほぐすには、支援者側こそが「本人・家族の思いや価値観」を理解し尊重することが不可欠です。つまり、支援者側の姿勢こそが最初に問われることになるわけです。

「認知症の人の理解」も同様です。認知症の人は「何も理解していない」わけではなく、その人なりに「理解しよう」とする意思を随所で示しています。それを支援者側がきちんと受け止められれば、その人にとっての大切な意思の表出が見られることも多々あります。

こうして考えると、意思決定支援というのは、支援者となる専門職自身が「自らの倫理的態度を振り返り、それでいいのかを自問自答する」という職業観の構築が前提なのかもしれません。決して、指針を定めてルーチン化すればいいというものではないわけです。

その点で「学び直し」が必要なのは、ケアマネ等の介護側だけでなく、むしろ医療職というケースも多いのではないでしょうか。診療報酬側でも「医療職の倫理観のあり方」にどこまで踏み込めるか。同時改定でも、このあたりがポイントとなりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。