2022(令和4)年の「国民生活基礎調査」の結果が公表されました。同調査には、3年ごとに「介護の状況」も含まれています。注目は、要介護または要支援の人(以下、要介護者等)がいるケースで「単独世帯」が初めて3割に達したこと。要介護者等の世帯に、何が起こっているのかを掘り下げます。
介護保険スタート時と現状を比較すると…
介護保険のスタート直後である2001(平成13)年の調査では、要介護者等のいる世帯のうち「単独世帯」は15.7%でした。その当時と比較して、「単独世帯」は割合的に倍増していることになります。また、同居家族がいるケースにおいては、「要介護者等」と「同居の主な介護者」の年齢組み合わせで「75歳以上同士」が35.7%。やはり、2001年時の調査との比較では17ポイント増加しています。
こうした状況から指摘されるのは、介護保険がスタートした当時と比べ、利用者をめぐる状況はまったく異なっていることです。つまり、家族に期待できる介護力は比較にならないほど厳しくなっていて、在宅生活の継続に向けては、24時間365日の安心をサービス中心で構成しなければならないわけです。
そのあたりは、「要介護者等」からみた「主な介護者」の続柄別構成割合でも明らかです。これを見ると、「同居」の割合が前回(2019年)調査の54.4%から8ポイント以上低下し、45.9%と5割を割り込みました。たった3年で大きな環境変化が進んだことになります。
要介護者等に必要な支援が行き届かない?
問題は、上記の「同居」以外のケースで、「別居の家族等」の割合も2ポイント近く減少していることです。一方、「事業者」は増加してはいるものの、3.6ポイント増にとどまっていることです。代わって「不詳」という回答は6ポイント以上伸びています。
この「不詳」の内訳は、調査概要等を見ても定かではありません。「主な介護者」が「不詳」ということは、「それまで同居・別居家族が主に担っていたが、(介護者の年齢・仕事等の状況によって)困難になったので、一定程度サービス事業者が担う割合が増えた」というケースなども考えられます。それにより、誰が中心的に介護を担っているのかがあいまいになったという事情もあるでしょう。
懸念されるのは、家族も事業者も「主な介護者」という位置づけに至っていないというケースです。独居で要支援の場合などで、サービスを使っていない(あるいは、福祉用具や住宅改修だけで、介助を要するサービスなどは使っていない)ケースも含まれている可能性があります。となれば、ぎりぎりの状態で、身の回りの必要な支援などが届いていない状況の増加も想定されることになります。
要介護原因で「骨折・転倒」3位浮上の意味
こうした状況を反映していると思われるデータも見られます。それが、「介護が必要になった主な原因」です。前回2019年の調査時から、1位「認知症」、2位「脳血管疾患」は変わりないものの、3位が「高齢による衰弱」から「骨折・転倒」に入れ替わっています。
「フレイル予防の取組みが功を奏して、『高齢による衰弱』が少なくなったでは…」と思われがちですが、割合だけを見ると2019年より増えています。むしろ、「骨折・転倒」の割合がそれ以上に伸びたことが、今回の順位の逆転につながった要因と言えます。
となれば、「高齢による衰弱」が進行する中で、一人暮らしの増加とともに「見守り的」あるいは「環境整備」での支援が届きにくいまま、少しのはずみで「骨折・転倒」に結びつきやすくなっているのではないか──そうした仮説も成り立ちそうです。つまり、ニーズに対する支援の不足がうかがえるわけです。
今後、さらに一人暮らし高齢者が増え、そうした人の高齢化・要介護化が進むとなれば、ちょっとしたはずみで「骨折・転倒」に至るケースは、さらに増えていく可能性があります。このことは、ストレートに入院医療の急増にもつながりかねません。
「生活援助」充実が医療費高騰を抑える!?
こうした状況を見すえたとき、先に述べた「見守り的」あるいは「環境整備」の視点での支援の拡充が急務となります。しかも、そこには「その人の状態像をきちんとアセスメントしたうえで転倒等のリスクを測る」という、プロとしての高度なスキルが不可欠です。
たとえば、「環境整備」というと手すりの設置や段差の解消などが思い浮かびますが、その人なりの生活動線等を頭に置いた「足元の整理・整頓」など「生活援助」のあり方も重要なポイントとなります。その点で、「生活援助」は「誰でもできる」ものではなく、言うなればリハビリ職に匹敵するだけのアセスメント力や洞察力が求められることになります。
その「生活援助」について、報酬上での評価を軽視したり、軽度者を給付対象から外すという議論は、先に述べたように「急性期医療の増大⇒医療費の膨張」を生じさせることになりかねません。今回の国民生活基礎調査の結果は、まさにそうした議論に警鐘を鳴らしていると言えるのではないでしょうか。
今回の調査結果は、深刻な事態に至る前の「入口」に過ぎないとも言えます。間もなく介護給付費分科会でも、訪問介護がテーマとして取り上げられるでしょう。その際、生活援助がもたらす重度化防止の効果について、国に実証データの収集を求めつつ、今から議論を深めていくことも必要になりそうです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。