ケアプランデータ連携システムが今年4月20日から本格稼働し、3か月が経過しました。WAM NET上では、全国の居宅介護支援および居宅介護サービス事業所の利用状況(7月21日時点)が掲載されています。最寄りの地域で、システムを利用している事業所が地図上等で検索できるしくみとなっています。
システム稼働はまだ始まったばかりだが…
地図上での掲載事業所数をもとに計算すると、居宅介護支援に限れば、2022年4月時点の請求事業所数に対して4%程度となっています。システム運用は始まったばかりですが、この数字をどう評価すればいいでしょうか。
2022年度の老人保健健康増進等事業「居宅介護支援および介護予防支援における令和3年度介護報酬改定の影響に関する調査研究事業」を見てみましょう。ICT機器等による「他事業所・多職種との連携状況」において、「クラウドを利用するなどして、全部または一部のデータを共有している」事業所は18.4%あります。これを「地域全体の取組み」として行なっているケースは6.4%となっています。
「地域全体の取組み」として行なっているというのは、いわば「クラウド利用などによるデータ共有」の基盤はできていることになります。先の居宅介護支援の掲載事業所数が約4%という数字は、システム開始直後という点を考慮すれば相応とも言えそうです。
とはいえ、「地域での取組み」が構築されていることが、今回のケアプランデータ連携システムを後押しする「基盤」に結びつくのかどうかは、検証が必要でしょう。たとえば、「地域で構築したしくみと、今回のシステムをどう融合すればいいか」などについて、迷いや混乱が生じる可能性もあるからです。
ライセンス料の根拠となる「民間手続き」
この点を頭に入れたうえで、今回のケアプランデータ連携システムが、定着していくのはどうか。また、定着に向けた課題があるとすれば、それは何か──を考えてみましょう。
今年6月14日の厚労省通知では、介護サービス事業所によるシステム利用の勧奨に向けて、「ケアプランデータ連携システムの導入におけるねらい・期待する効果」と題した資料を示しています。その中で「ライセンス料」についてふれている項があります。
内容は、同システムを安定的・継続的に運用するための「ライセンス料」の発生根拠を示したものです。それによれば、ケアプランデータ連携システムは、LIFEなどと異なり、「行政手続きではなく事業者同士で行なわれる民間の手続きである」としています。
「民間の手続き」であるゆえ、システムの運用は「民間サービス」として行なう──ここに、利用者である事業者に「ライセンス料」を負担してもらう根拠が生じるわけです。
「行政手続きでないなら…」という思考も?
注意したいのは、この「民間の手続き」という考え方です。純粋に民間の手続きなら、各事業者の経営判断に任される事案です。厚労省は、さまざまな生産性向上のメリットをPRしていますが、事業者にしてみれば「確かにメリットはあるだろうが、行政手続き上の定めがないなら、慌てて導入する必要はないのでは」と考えるかもしれません。
また、先の通知資料でも記されていますが、現状で今データ連携と同様のサービスが有償・無償で複数存在しています。先に述べた「地域全体の取組み」が、すでに別サービスで構築されていれば、それに乗り換えるかどうかは、「地域の判断による」ことになります。
ちなみに厚労省は、従来の民間サービスについて「経営状況等によりサービス停止のリスクがある」という課題を指摘しています。そのうえで、本システムについては「国民健康保険中央会の事業として、国も関与しながら」運用するというメリットを強調。従来のシステムよりも安心度は高いというわけです。
「その先」のビジョンが見えないと停滞も…
しかし、どうも歯切れはよくありません。同システムは、国が打ち出す「介護現場の生産性向上」の重要な一施策となるものです。だからこそ、安定的な運営のために「国も関与する」とうたっているのでしょう。ところが、ライセンス料の根拠を示すために「民間手続きである」という理屈が挟まることで、施策の焦点がぼやけがちになるからです。
確かに、利用者する側に「ライセンス料」の発生を納得してもらうことは不可欠です。しかし、そのために「民間手続き」であることをうたうのなら、たとえば「地域での取組み」等にどうやって活かすかというビジョンを示すことにも同時に力を注がないと、同システムの普及を「わが事」として加速させることは難しいのではないでしょうか。
資料では、先の法改正による介護情報基盤の整備にかかるページが挟み込まれています(サポートサイトのQ&Aでも、「将来的なデータ活用」については「検討中」としている)。将来的なビジョンの一端なのでしょうが、唐突感は拭えません。現場としては、「このシステム導入の先に何があるのか」という観測が今後も強まる可能性があります。
今回のシステム導入により、転記ミス等による過誤請求がなくなることなどは、確かに大きなメリットです。一方で、地域ごとにさまざまな情報共有・連携のしくみ作りが進む中、今回のシステムの将来的な位置づけがぼやけたままでは、せっかくの地域の創意工夫まで「様子見」で停滞しかねません。
国としては、効率化にかかるメリットを強調するだけでなく、地域の目線に立つ意識を強めることが必要かもしれません。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。