厚労省より「情報通信機器を活用した介護サービス事業所・施設等における管理者の業務の実施に関する留意事項」が出されました。いわゆる「テレワーク」を介護現場の管理者に適用する際の留意事項です。政府の工程表では、管理者以外の従事者にかかる規定も、2024年度までに定めるとしています。
介護業務にテレワーク。そのメリットと不安
今回の留意事項の発出を受けて、「介護業務にテレワーク? 管理者であっても導入は難しいのでは?」と考える人も多いかもしれません。ケアマネの場合でも、「個人情報漏洩のリスクから、家に仕事を持ち帰ることさえ禁じられている。そうした業務風土とテレワークの導入の間の乖離は大きく、現場の混乱が広がるのでは…」という懸念もあるでしょう。
もちろん、働く側としてのテレワークのメリットもあります。たとえば育児休業の就業でも、一定要件を満たせば育児休業給付金の支給を受けることができます(2014年より要件緩和)。そうしたケースで、テレワークという選択肢は大きな後押しとなります。もっとも、その場合でも在宅で育児と仕事を両立する従事者の負担に考慮しなければなりません。
いずれにしても、労働力不足への対応や感染症拡大下等での業務継続といった観点にとどまらず、それが従事者の生活やキャリアに与える影響と向き合わなければなりません。
テレワークを実施した場合の「常駐規制」
この介護分野におけるテレワークは、政府のデジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)が2022年6月に取りまとめた「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」で取り上げられました。その中で示された方針が、介護サービスの人員基準における「常駐規制」の見直しです。「常駐規制」とは、常に事業者や現場に留まることを求めた規制です。この「常駐規制」を遵守しないと、人員基準が満たされないことになります。
この「常駐規制」について、従事者がテレワーク(情報通信機器を活用した遠隔での業務)を実施した場合はどうなるのかを明確にする──これがデジタル臨調の要請です。これを受けて、「常駐規制」におけるテレワークの位置づけや、その際の具体的な考え方を厚労省が示したことになります。
ちなみに、2021年度改定では、新型コロナの感染拡大を受けて、運営基準上で示された各種会議・研修等をオンラインで実施しても構わないという規制緩和が行われました。会議も必須研修も「業務時間内で行なわれる」という原則に立てば、それはテレワークとなります。ところが、人員基準ではこの点についてあいまいです。それを補うというのも、今回の留意事項の趣旨といえます。
2024年度改定では、管理者以外も対象に
なお、今回示された留意事項は「管理者」にとどまります。一方で、2022年12月にデジタル臨調が決定した「デジタル原則を踏まえたアナログ規制の見直しにかかる工程表」では、管理者以外の職種についても「2024年3月末」までに必要な対応を行なうことを求めています。つまり、2024年度の基準改定で、介護現場のすべての職種にも「常駐規制の見直し」が図られるになるわけです。
この2024年度改定を見すえたうえで、今回の「管理者」にかかる留意事項で特に着目したい点を取り上げます。それは、管理業務におけるテレワークに関して「それぞれの管理に支障が生じない範囲において」という条件です。「それぞれの管理に支障が生じない範囲」とは具体的に何を指すのでしょうか。
今回の留意事項によれば、従業者の管理や業務の実施状況の把握、運営基準を遵守させるのための指揮命令などの管理者の責務に支障が生じないようにすること。管理者が利用者や従事者との間で適切に連絡がとれる体制を確保すること。さらに、事故発生時等の緊急時の対応を定めたうえで、必要に応じて管理者が速やかに出勤できるようにしておくこと──などがあげられています。
労使の合意形成の環境をいかに整えるか
これらに加えて注目したいのが、管理者以外の従事者に過度な負担が生じないようにするという点です。当然の留意事項と言えますが、問題は「過度な負担」が生じたとして、現場従事者がそれを事業主にきちんと訴えることができるのかどうかです。このあたりは、「テレワーク」導入に対する現場の合意形成のしくみにかかわってきます。
今回の留意事項の通知では、「テレワークの適切な導入および実施の推進のためのガイドライン」のリンクも示されています。その中では、「テレワークを行なうことによって、労働者に過度の負担が生じることは望ましくない」と明記されています。
たとえば、必要な機器購入費や通信費、光熱費などを誰がどの程度負担するのか。業務遂行時の疑問や不安を解消するための組織内コミュニケーションをどのように確保するのか。先のケアマネのケースであげた、利用者の個人情報保護をどのように進めていくのか──これらについて、労使がきちんと話し合いながら、いかに従事者の負担軽減を図るかが前提となってくるでしょう。
昨今の介護絵現場では、「人材不足の中でも地域のサービス継続を実現する」といった名目で、現場従事者がさまざまな負担を強いられがちな風土が強まっています。その点を考慮しつつ、今回のテレワーク想定にとどまらず、「従事者保護」の基本方針(基本法なども含む)を強化することが前提となりそうです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。