2024年度改定に向けた「基本的な視点」。 実は、ケアマネジメント改革が焦点?

10月11日の介護給付費分科会で、2024年度の報酬・基準改定に向けた「基本的な視点」が提示されました。第1クールの議論や関係団体ヒアリングを受けて、これからの議論の方向性を示したものです。具体性には乏しいものの、今後の議論を見すえるうえで注意したいポイントがいくつかあります。

「複合型サービス」の文言はないものの…

まず、基本的な視点の1つめである「地域包括ケアシステムの深化・推進」ですが、その中で「質の高いケアマネジメントや必要なサービスが切れ目なく提供されるよう、地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組みを推進することが求められる」とあります。

一見すると、地域包括ケアシステムのあり方をざっくりと示しただけという感もあります。しかし、掘り下げてみると、改定に向けたさまざまなヒントが浮かんできます。ポイントは「地域の実情に応じた」という点と「柔軟かつ効率的な取組み」という点です。

前者で思い浮かぶといえば、総合事業を含む地域特有のインフォーマルな資源でしょう。ただし、「必要なサービスが切れ目なく」としている点でインフォーマルサービスなどを含みはするものの、それだけではない捉え方もできます。つまり、給付サービスを含め、地域の実情によって保険者が創意工夫できるものであり、しかも後者の「柔軟かつ効率的」に提供できるものということになります。

思い浮かぶサービスの1つが、訪問介護と通所介護などを「柔軟」に組み合わせた新たな複合型サービスではないでしょうか。この新たな複合型サービスについては、給付費分科会では賛否が分かれていますが、最終的に保険者判断での導入(つまり、指定基準の緩和)が模索されている状況も浮かびます。

ケアマネの役割範囲見直しも垣間見えてくる

そのうえで注意したいのが、「質の高いケアマネジメント」も「切れ目なく提供される」対象にしていることです。はっきりとはふれていませんが、ここにはケアマネの役割をどこまで広げるかという論点も垣間見えます。

ケアマネ人材が限られゆく中で、先の新たな複合型サービスをはじめ、小多機系や居住系(GHなど)のケアマネジメントを誰が担うのか。仕事と介護の両立支援におけるケアマネの役割の範囲は、どうなるのか。関係団体ヒアリングでも上がったIoT活用による逓減制のさらなる緩和やモニタリング訪問の規定見直しの話も浮かんでくるでしょう。

さらに、「医療・介護の複合ニーズを有する患者・利用者が増加」しているという課題を取り上げつつ、「医療の視点を踏まえたケアマネジメント」を進めていくことも強調されています。思い浮かぶのは、適切なケアマネジメント手法の「疾患別ケア」などをケアマネ実務でどのように発揮し、対医療連携に反映させていくかということでしょう。

リハ・栄養・口腔一体化とケアマネの関係は?

抽象的な文言が多い中で、具体性の高い指摘が行われている部分もあります。たとえば、地域包括ケアシステムにおける「認知症の対応力向上に向けた取組み」、自立支援・重度化防止の観点から、「リハビリテーション・口腔・栄養の一体的取組み」の推進、「LIFEを活用した質の高い介護」という具合です。

認知症対応力の向上については、以前のニュース解説で、居宅サービスにおけるBPSD悪化因子の共有がポイントの1つと述べました。チームでの因子共有となれば、当然差配にかかわるケアマネの取組みへの評価も論点となるでしょう。「リハビリ・口腔・栄養の一体的取組み」についても、居宅サービスにおいてはケアプラン上での反映が問われます。

さらに「LIFEの活用」については、居宅介護支援にも「LIFE対応加算」を適用するかどうかが論点となっています。これも分科会では賛否が分かれている論点ですが、少なくとも居宅チームにおいて「LIFEのフィードバックをどのように活用するか(そこにケアマネがどのようにかかわるか)」が、議論の焦点となってくる可能性は高いでしょう。

ケアマネの処遇改善はあるか、基本報酬は?

こうしてみると、今回の基本的な視点で「ケアマネジメント」の文言が出てくるのはわずかですが、実は2024年度改定の軸の1つと定めている様子が浮かびます。ただし、ケアマネの実務負担を考えれば、その処遇改善やIoT・ICT装備コストを見すえた基本報酬のあり方の議論を避けて通ることはできません。

問題は、あらゆるサービスで職員の処遇改善や基本報酬の大幅アップなどが叫ばれる中、居宅介護支援だけを突出して優遇することは現実的に困難な状況です。となれば、少なくとも「ケアマネの処遇改善加算の創設」と「(対医療連携の強化を見すえた)重度要介護者の基本報酬増」を“ある程度”実現したうえで、後は「(IoT活用などを要件とした)担当件数上限やモニタリング等の実務の緩和」を図るという流れになることが予想されます。

加えて、ターミナルケアマネジメントの算定対象の拡大や、利用者情報保護等のセキュリティ対策を徹底したうえでのケアマネのテレワークの集中的な推進など、これまでの改定以上に、ケアマネに重点化した改革のラインナップが浮かんできそうです。

もちろんトータルで見た時に、それらの改革が、ケアマネにとって実務負担に見合うだけの魅力となるかどうかは判断が難しいでしょう。今後出てくる1つ1つの改革案について、「それを現場で適用した場合の費用対効果はどうなのか」を見極めることが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。