今回はややおとなしい財務省だが… 2027年度の大改革に向けた布石に注意

次期介護報酬の改定率を左右する2024年度の予算編成が近づく中、財務省の財政制度等審議会(財政制度分科会)が、予算編成に向けた社会保障制度にかかる課題を示しました。介護報酬・基準改定などに向けた改革案もかかげています。将来に向けて、どのような影響がおよぶのかを見すえておきましょう。

財政制度等分科会の改革案で示されたこと

2024年度の介護報酬・基準改定では、急速な物価上昇や全産業の賃金水準の上昇により、現場からは改定率の大幅な引き上げや処遇改善策の拡充を求める声が高まっています。先に閣議決定された総合経済対策にもとづく、補正予算による追加的な支援策も気になりますが、何より改定率を左右する本予算の動向に、まずは関心が集中するでしょう。

そうした中で示されたのが、今回の財務省審議会の改革案です。介護業界の厳しい状況を反映してか、(診療報酬との兼ね合いが問題となる訪問看護を除き)特定のサービスに対して「報酬の適正化」を厳しく迫るなどの改革案は影を潜めています。その点では、ニュースでも上がったとおり、過去の改定期と比べて「マイルド」と言えるかもしれません。

とはいえ、「収支差率の良好なサービス」という大まかな枠内で、「報酬水準の適正化・効率化を徹底して図るべき」という厳しい姿勢を示していることに変わりはありません。

事業所の収支差率で問題にしていること

財務省は、かねてから厚労省が行なう介護事業経営の概況・実態調査について、以下のような指摘をしています。「事業所から本部への繰入れ」という特別費用は反映されている一方で、特別利益(本部から事業所への繰入れなど)が反映されていないことです。

これにより、財務省などからは、「公表される収支差に偏りがある」と指摘されてきました。そこで、間もなく公表される2023年度の介護事業経営実態調査では、特別利益にかかる調査項目が追加されています。

それに先がけて、今回の財政制度分科会で示されたデータでは、特別費用を除いた収支差率も示されました。さらに、全産業や中小企業の収支差率との比較も行なわれています。

その結果、人材不足が特に深刻化している訪問介護では、収支差率が8.6%となり、「極端にサービス提供量が多い事業所がある」と指摘されていた訪問看護を上回ります。特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)に至っては10.9%となっています。

今は「厳しい適正化」の条件が整っていない?

もちろん、「事業所から本部への繰入れ」といった特別費用や収支差率そのものは、事業所規模によって差が生じやすいものです。あくまで平均的なデータから報酬引下げなどを断行すれば、特に訪問介護などの撤退が加速し、地域から資源が喪失するといった現象も起きかねません。保険料負担が上昇する中で、地域によって「受けられないサービス」が出てくれば、制度は崩壊してしまうでしょう。

そうした状況を見れば、さすがの財務省も今回は厳しい改定は行えない──というのが、一般的な見方かもしれません。もっとも、それは「今は条件が整っていない」という背景があることに注意が必要です。

たとえば、小規模事業所などは、特別費用が生じにくいにもかかわらず収支差率が低いのが実態です。そこで、こうした事業のあり方の解消に向け、今改革では「事業の協働化・大規模化を推進するべき」としています。

とりあえずは、協働化の促進に向けた好事例の横展開などが中心となるでしょう。ただし、その次の2027年度に向けては、制度上で何らかの強制力を持たせるしくみが打ち出される可能性があります。たとえば、法改正により、一定規模以下の事業所に事業規模の拡大や協働化を義務づけるという具合です。

大規模化・協働化を強力に進める新施策も?

ちなみに、2024年度からは全サービス事業所・施設に対して、会計年度ごとに経営情報の提出が義務化されます。この実施にともない、さらなる法改正を組み合わせれば、大規模化・協働化の義務づけ対象をどうするかという「線引き」がしやすくなるわけです。

加えて注意したいのが、今回の介護給付費分科会でも提案されている「訪問介護と通所介護等の新たな複合型」です。分科会では消極的な意見も目立っていますが、これを上記で述べた「大規模化・協働化」の受け皿と位置づければ、国としては「今から整備を進めておきたいしくみ」の1つと言えます。

このように、財務省としては、1つ1つ「外堀」を埋めていきながら、2027年度には一気に介護報酬の適正化(改定率の大幅な引き下げなど)に踏み出す──こうした道筋がおぼろげながら浮かんできます。仮に2024年度で過去最大規模の改定率アップが実現されたしても、業界全体の大幅な改編も含め、現場としては手放しで喜べないかもしれません。

こうした先々の改革を見すえたとき、今後の報酬改定等の議論で特に注視したいポイントをいくつかあげておきましょう。

まず、間もなく公表される2023年度の介護事業経営実態調査の結果が、調査項目の見直しでどうなったか。通所介護など、規模別の報酬改定がどうなるか。新たな複合型サービスが誕生するとして、その基本報酬や加算などの体系はどうなるのかといった具合です。もちろん、処遇改善の加算率がどうなるか、場合によっては補正予算での期中改定となる可能性があることにも注意が必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。