たとえば、虐待の早期発見等に支障は? モニタリングのオンライン化で検証すべきこと

2024年度改定に向けた介護給付費分科会のサービス別議論で、居宅介護支援にかかる改革案が示されました。まず注目したいのは、業務負担軽減の一環として、テレビ電話等の活用によるモニタリングを可としたことです。果たして現場に浸透する改革なのでしょうか。

オンライン導入の可否、誰がどう判断する?

今回の改革案は、ケアマネ不足が深刻化すする中での業務効率化の一環として提示されたものです。2021年度改定で、サ担会議等のオンライン開催が可能となりました。しかし、テレビ電話等の設定・操作を含め、実際には「ケアマネが利用者宅を訪問してサポートにつく」というケースも見受けられます。

これに対し、今回は「利用者」と「ケアマネ」との間のオンライン面談であり、利用者につくサポートは家族のみとなります。その点では、サ担会議のオンライン化から状況的にも踏み込んだ改革案と言えるでしょう。

そのために、「利用者の同意を得ること」や「利用者の状態が安定していること」、「利用者がテレビ電話等を介して意思表示できること(家族がサポートに入る場合も含む)」といった条件が積み上がっています。

問題は、「安定しているのかどうか(頻繁なケアプラン変更が想定されないのかどうか)」や「利用者が意思表示できているかどうか」という線引きを、誰がどう判断するのかという点でしょう。「安定しているか否か」では「主治医の所見等を踏まえる」としていますが、それも含めて最終的には居宅介護支援事業所側の判断ということになるのでしょうか。

コロナ禍特例時の検証は果たして十分か

その場合、仮にオンラインでの把握漏れが生じ、それが後々大きな問題へとつながった場合、居宅介護支援事業所側が責任を問われる可能性もあります。「利用者の同意」が前提になっているとはいえ、事業所側が「オンラインで実施することになった」という方針を示せば、利用者の中には「そういうものか」と従ってしまうケースもあります。

そのあたりの問題が生じそうな部分について、綿密に把握しながら省令等で明確化する必要があるでしょう。たとえば、事業所として「業務の効率化のためにオンラインでのモニタリングを推奨する」という方針をかかげた場合、現場のケアマネとしては「情報収集について不安があるが、事業所方針だから従わざるをえない」となりかねません。

つまり、本当にオンラインでのモニタリングで大丈夫なのか──という判断について、利用者、ケアマネ、事業所の間でさまざまな乖離が生じる懸念があるわけです。今回は、コロナ禍の特例が恒久化されたという点で、「すでに実績があること」が強調されがちですが、特例により本当に問題がなかったのかを検証することは不可欠でしょう。

オンライン実証調査を見ると懸念材料も多い

ちなみに、今回の改革案では、昨年11月に行われた老健事業での「ICTを活用したモニタリング実証調査」の結果が取り上げられ、利用者側の評価などがおおむね良好であるデータ等が前面に出されています。しかし、詳細な調査結果を見ると、それなりに課題が浮上している点にも注意が必要でしょう。

たとえば、「オンラインを活用したモニタリングを行うにあたっての課題(訪問系サービスとの情報連携を踏まえたケース)」がまとめられています。それによれば、「利用者から本音を引き出すことが難しい」「状態像の変化を見逃しやすい」、「利用者との関係性を構築することが難しい」なども目立っています。

何より注目したいのは、本調査での「オンラインを活用したモニタリングを実施するうえでの利用者の要件等」において、以下のような項目も上がっていることです。いわば実施する際の注意事項というところでしょう。

具体的には、「訪問による、対面のモニタリングは虐待の早期発見等の役割も果たしている」、「難聴の方、認知症を有する方は、家族が同席していても(中略)意思決定支援が難しい」といった内容です。このあたりも、今後は課題として上がってくるでしょう。

改革直後に踏み出す事業者は少なくても…

今回の改革案は、あくまで「基準上で可能とする」ものであり、「モニタリングをオンラインでやるべき」としているわけではありません。その点では、実際に踏み出す事業者は少ないのでは──と思われるかもしれません。

とはいえ、厚労省としては、昨年の介護保険部会の取りまとめで示されたように、「ケアマネジメントの質の向上」に向けた「さらなる業務効率化に向けた検討」に踏み込むことを重要課題としています。また、政府のデジタル臨調の工程表では、人員基準上でのテレワークの位置づけの明確化を迫っています。

今後、居宅介護支援の報酬引き上げも含めたケアマネの処遇改善のあり方も、改めて大きな論点となってくるでしょう。そうした中で、厚労省としても「踏み込んだ業務効率化の具体策」を一刻も早く形にしたいという焦りがあることは、容易に推察されます。

逆に言えば、今回の「オンラインによるモニタリング」という改革案は、現場が考える以上に、厚労省として「定着させたい業務習慣」と位置づけていると考えていいでしょう。となれば、2027年度に向けては、特定事業所加算の要件に位置づけるなど報酬上での評価が絡んでくる可能性もあります。改定直後に踏み出す事業所は少なくても、状況が刻々と変わっていく可能性に注意が必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。